2002年2月27日水曜日

田部京子/ シベリウス ピアノ小品集 (PIANO WORKS)


5つのロマンティックな小品 作品101 - Five Romantic Piecess
5つのピアノ小品(樹木)作品75 - Five Pieces for Piano('The Trees')
5つのピアノ小品(花)作品85 - Five Pieces for Piano('The Flowers'
5つのスケッチ 作品114 - Cinq Esquisses
5つの性格的な印象 作品103 - Five Characteristic Impressions

ピアノ:田部京子
英CHANDOS CHAN 9833(輸入版)

田部京子がシャンドスにシベリウスの小品を録音したと話題になった盤だ。しかし、田部が室蘭出身のピアニストで世界的にも評価が高いこと、吉松隆の「プレイアデス舞曲集」の録音などがポピュラーであることは知っているものの彼女の盤を買うのははじめて。そもそもシベリウスのピアノ曲演奏は舘野泉さえ聴いたことがない。だからそれほど期待していたわけではなかったのだが、聴きとおしてみると、レビュを書かずにはいられないような内容であった。とにかく素晴らしいというに尽きる、まずは聴いてみてと素直に薦めよう。

シベリウスといえば交響曲や管弦楽曲、それにバイオリン協奏曲などが有名であるものの、ピアノ曲となると、メジャーとはいえない分野だろう。交響曲作家が室内楽やピアノ曲を描く場合、作曲家の本心に近い内声を反映させたものとなることがある。たとえばベートーベンやショスタコービッチの弦楽四重奏曲などがそうだ。

シベリウスのピアノ曲も、シベリウスの交響曲などに表現されない別の心象の表出なのかと思えてくる。誰の曲か知らずに聴いていると、これらの小品がシベリウスの作品であると気付かないかもしれない。聴きようによっては、ドビュッシーのようにもラベルのようにも聴こえるし、アルベニスのような雰囲気の旋律さえ漂わせる。

作品番号75は交響曲4番と5番の間、作品番号114は交響曲7番の後の作品である。シベリウスの位置付けとしては、初期の民族高揚的な音楽を越えて彼独自の内面的な世界へと入りつつある時期からの作品と言えるだろうか。5つの小品群は、交響曲が後期に進むにつれて簡潔さとともにある種の晦渋さを併せ持つようになったのとは対称的だ。儚さにも似たもろさと美しさをたたえ、しかもシベリウス的な透明感と清涼感を感じる。さらには、繰り返して私が彼の曲から受ける煌きが随所に感じられる。こんなに素晴らしい曲を彼は描いていたのかと、改めてシベリウスという作曲家の認識を新たにする。

演奏を耳にする機会が少ないだろうと思われるこれらの曲の素晴らしさは、もの珍しさだけではないと思う。それにしても田部のピアノも良い。シベリウスの曲の雰囲気にタッチや音色が非常にマッチして、ため息がこぼれるような演奏に仕上がっている。何度も繰り返し聴きたくなる宝物のような一枚と言えようか。

この演奏については、以下のサイトでレビュが公開されているので併せて読まれると興味が尽きない。

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