2003年5月2日金曜日

池谷裕二・糸井重里:「海馬」~脳は疲れない

GW中に息子が読んでいた本だ。どんな本なのかと読み始めたら面白くて一気に読んでしまった。結構売れている本らしい。

池谷祐二氏は現在三一歳、東京大学薬学部の助手で、九八年に博士号を取得した脳について研究している学者である。「海馬」とは、脳のなかで記憶を操る部位を差していて、池谷氏はまさに海馬を中心に脳細胞を研究しているとのこと。本書は、コピーライターの糸井重里氏と池谷氏の対談という形でまとめられている。

残念ながら手元に本書がない状態で感想を書いているので、あやふやな点が多いのだが、とにかく語り口が(対話形式)平易で読ませる。脳についての興味深い、すこしばかり専門的なハナシを池谷氏が語るのだが、それを糸井氏が独特のセンスで翻訳して説明してくれるのが心地よい。また副題にある「脳は疲れない」という類のちょっとした話題が、何か人に可能性と元気を与えてくれるような、そんな内容になっている。

ただし、例えば立花隆氏のサイエンスもののように、糸井氏がものすごい勉強をして対談に望み、海馬研究の先端をフカク解説するという類の本では全くない。むしろ、糸井氏と池谷氏が、お互い「海馬」というテーマを通して、お互いが刺激されながら会話をスパイラルさせているというもので、会話そのものがどこに向い、どういうテーマにつなげて行くのかという、コミュニケーションのスリリングさを味わうという種類の本になっている。そういう意味においては、糸井氏は池谷氏の絶好の「広告」をしているということになる。

糸井氏は、仕事柄、脳の働きや脳神経の働き(シナプス結合)などを、都市や共同作業におけるコラボレーションによる発展的な対話というふうに結び付けて考えるあたり、なるほどなあと思わせる。実際、数十時間に及ぶ対談は、両者にとって相当ハードでかつ刺激に満ちたものであったようだ。感性の鋭い異分野の人たちが導く対話の妙を味わうという意味において、読む側も刺激に満ちたものになっている。ただし、海馬や脳について深く知りたいという向きの方には(当然)不満は残る。

蛇足になるが、最先端の脳研究を薬学部の学者が行っているのだなあと(考えてみれば当たり前とも思うが)思ったのでありました。

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