2003年8月4日月曜日

貫井徳朗:迷宮遡行

貫井氏は「慟哭」が絶賛を博したため、第二作目を書くことにかなりのプレッシャーを感じたらしい。彼は悩んだ末に「烙印」(1994)を書き上げるが、作品として成功したものとは言えず、そこで今回「迷宮遡行」という作品に全面改稿しとのこと。

貫井氏は今となっては、書店の人気ミステリーコーナーを賑わしている作家であることは認めるのだが、この作品を読んでも、私にはピンと来なかった。

貫井氏は、本作においては、会社をリストラされ、恋女房にも逃げられた冴えない男性を主人公とし、女房を探すうちに、まわりには暴力団の陰がちらつき始め、そして意外な結末へと向うのだが、それを意図的に軽妙な語り口で書いている。

(主人公がヤクザに脅されながら吐く言葉)

「そんなつもりはありません。で、でも教えてくれるなら、ちょっと嬉しいかなぁ―――って嘘です。冗談です。」(P.152)

こういう文体や作風については好みが分かれると思う。喜劇として読むならば良い。それだけに、「慟哭」でもそうであったが、どうしてもラストが承服できない。

いったい貫井氏は何を書きたいのだろう。意外さや奇抜さで読者をあっと言わせたいがために、ハードボイルドやミステリを選択しているのだろうか。手品やコントを見るような楽しみはあっても、私はその先に進めない。

それに、貫井氏は若いのに(というのも変だが)、どうして「全てを失った男」が好きなのだろう。喪失と再生というテーマならば良い。貫井氏の場合は、喪失から喪失へなのだ。それは悲劇であろうが喜劇であろうが、私には救いが見出せない。