2004年6月28日月曜日

佐々木幹郎:「やわらかく、壊れる」


宮本隆司氏の写真展と前後してこの本を手にとっていました。「やわらかく、壊れる~都市の滅び方について」というタイトルが非常に詩的であり、興味をそそられたのと、表紙や本文中に宮本隆司氏の写真が使われていたからであったのですが。

しかし読んでみれば、「やわらかく、壊れる」とはソフト的にして形而上的な話ではなく、神戸の地震を契機として被害を最小限に留めるための設計思想について述べたものであって、詩人にしては現実的な、と実は興覚めしたことも確かです。

「柔らかく壊れる」という思想は、最近の建築構造設計の思想の一つになっていますから当たらずとも遠からずではあるのですが。ではこの本がつまらないかというと、そうでもなく、佐々木幹郎という人、いまどき珍しい風来坊であるなあと思った次第です。

詩人なのですから日中からノラ猫相手に時間を潰していても構いませんし、『永代橋の上で何時間も風に吹かれ神輿が到着するのを待って』いても構いません。気の赴くままネパールに行ったり湾岸戦争で汚れた「アラビア湾」をキレイにするボランティアに参加したって問題ありません。文章が書かれたのはまさにバブルが弾けつつあった1990年頃から1995年の間のものが多く、読みながら無邪気なお江戸賛歌や東京賛歌のようなスタンスに違和感を感じないでもありません。詩人に対するやっかみでしょうかね。

不思議な人です。根っから風来坊なんでしょうか、はたまた彼が図らずも露呈する『日々是観光の地の日常』という気分なのでしょうか。批判も肯定もせず、フラットな視線でものごとを記述しています。この独特の穏やかさと、子供のような好奇心に満ちた視線。彼の文章の初出一覧や著作を眺めてみれば、彼が「紀行」の分野で活躍していることが分かり、そうするとなにやら合点した気分。何かに規定して枠に納めてでなくては考えられない私の悪い癖ではあります。

彼の生活圏が辺見庸氏と同じように「隅田川の左岸」、両国は回向院の近くというのも何だか妙なものだなあと思うのでありました。今度両国に行く機会があったら、回向院詣ででもしてみましょうか。

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