2005年3月12日土曜日

歌舞伎座:近江源氏先陣館

中村勘九郎襲名披露の最初の月夜の部は、「軍艦級」と言われる「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」から始まりました。「盛綱陣屋」は近松半ニと三好松洛の合作した全十段の浄瑠璃の第八段に当たります。歌舞伎では「和田兵衛上使の段」「盛綱陣屋(小四郎恩愛の段、盛綱首実検の段)の段」と演じられています。


時は源氏の時代、盛綱と高綱兄弟が北条方と源氏方に分かれて戦っています。盛綱、高綱兄弟の母親が微妙で、盛綱の陣営に居ます。敵方に回っている高綱は知将として北条勢に怖れられている軍師で、老獪な北条時政が何とかしたいと思っています。そんなときに、高綱の一子小四郎が盛綱陣営に捕らえられたところから話しは始まるのです。


配役は豪華の一言、まさに襲名披露にふさわしいという顔ぶれです。人間国宝の芝翫(成駒屋)に始まり、豪傑の和田兵衛には富十郎(天王寺屋)が、敵方になった弟高綱の妻 篝火には芝翫の長男である福助(成駒屋)が、そして囚われの身となった高綱の子 小四郎には福助の長男児太郎(成駒屋)が、端役に近い信楽太郎を幸四郎(高麗屋)が演じているのですから凄いですね。成駒屋に至っては三代総出演です。




まず注目はやはり勘三郎でしょうか。幕見席からですと舞台が遠く、また誰が誰なのかよく分らないものの、さすがに勘三郎が登場すると、あたかもスポットライトが当たったかのような華やかさが生まれるのは、衣装の輝きだけではありますまい。テレビのトーク番組でしか見たことのない勘三郎でしたが、他の俳優たちに比べ通りの良い高めのトーンの声は、4階幕見席までしっかりと届いてくれます。さすが貫禄といったところでしょうか。


盛綱・高綱兄弟の母親役微妙は、歌舞伎「三婆」といわれるほどの難役ですが、それを演じるのが、先月「新版歌祭文」でお光を演じた芝翫です。微妙は、兄弟が別れて戦っていることに心を痛めながらも、武家に生まれた身として自らの立場もわきまえています。長男の盛綱が、生け捕りにされた弟高綱の子、つまり微妙の孫にあたる小四郎に切腹するように仕向けてくれ、という難しい頼みごとを引き受けます。


親子の中に改めて頼むと有るはよく/\の事ならしめ仔細は知らねど心得ました。



ここでの盛綱と微妙のやり取りは見せ場の一つでしょうか。微妙が居ることで、劇にずしりと重みが加わっているような感触があります。


この演目は、兄弟で敵味方に分かれて争う戦国の世の理不尽の中で生きる武士達の気構えと哀しみ、父の意思を汲み自らの命を絶つ小四郎の健気さと、敵であり知将とされる弟高綱に武士として生きて欲しいと考え、自らの身の危険も顧みずに苦渋の決断をする盛綱など、複雑な心理劇が見せ場です。

児太郎演じる小四郎は、台詞が一本調子で、まだまだなのですが父の首を見せられ白刃を自らの腹に突き立てて、あわてる盛綱らに


何故死ぬとは叔父様とも覚えませぬ、卑怯未練も父様に逢いたさ、父を先立てて何まだ/\と生き恥をさらさん、親子一緒に討死して、武士の自害の手本を見せる

の場面はなかなか緊張感に跳んでいます。この後が、見せ場のひとつ盛綱の首実検。台詞なく、何故小四郎が贋首と分かっていながら、父の首なりと自害したのか、自ら問答する場面です。遠くからではよく分かりませんが、次第に変化してゆく盛綱の様子がそれとなく伝わってきました。


異彩を放つのは敵方の軍師である和田兵衛ですが、敵の陣中に単身乗り込んでくるなど豪胆さを見せ付けます。最後に再び登場し、盛綱が贋首と偽って証言した不忠から自害しようとするのを留めるなど、
けっこういい役回りです。和田兵衛を演じるのが、「新版歌祭文」で久作をを好演した富十郎です。彼の台詞まわしは非常に聞きやすく、そして劇にほっとした雰囲気を与えてくれていました。


という具合に、いろいろ楽しめる「盛綱陣屋」でした。今回初めてイヤホンガイドをつけて望んだのですが、これは結構くせものでした。初めてみる劇ですから、解説してくれるのはありがたいのですが、流れつづける劇進行をどうしても阻害してしまう、劇に入れなくなるんですね。だいたいの筋は分かったので、機会があればまた観てみたいですが(>って、また1時間も並ぶのかよ>誰か替わりに並んでくれ)。


にしても・・・武士って大変だったのですね。