2006年2月20日月曜日

ムンクを追え!



本書は1994年、リレハンメル・オリンピックの際に起きたムンクの「叫び」盗難事件を中心に、ロンドン警視庁の敏腕捜査官、チャーリー・ヒルの活動と美術闇社会の実態について書いたノンフィクションです。


面白い本というのは、まさにこういうものを言うんだよなとワクワクしながら頁を繰り何度も電車の駅を乗り過ごしそうになりました。美術品の想像を絶する値段、盗んでくれと言わんばかりの防犯体制、絶えることのない盗難事件、嘘付きでケチな盗人やギャングたち、怪しい画商、美術品に対する警察の意識の低さ、そしてチャーリー・ヒルという一匹狼的な囮捜査官。内容はそのまま映画化も可能なくらいにドラマチックです。



ロンドン警視庁の囮捜査官という存在自体が「映画的」です。高価な美術品の辿る数奇な運命と黒幕の「ドクター・ノオ」は存在するのかなど、盗難事件をめぐる実話には、さまざまな妄想をかきたてられます。誰もが知る名画を盗んだ後に、盗人達は一体それをどうやって売買するのか? ということに興味は尽きませんからね。


しかし、美術盗難品の奪還に異常なまでの執念を燃やす、この本の主役であるチャーリー・ヒルに「ドクター・ノオ」あるいは「ミスター・X」のような黒幕の存在について話そうものならば、


そんな話を持ちだすやつは、自分が底なしのマヌケで、他人の仕事を邪魔しにきたと宣言するに等しい(P.233)

と憤慨します。マスコミや一般大衆が夢想する「ミスターX」などいないのだと。超有名絵画を盗むということには色々な理由や思惑があるようですが、主たる理由は金銭的価値に対する期待値でしかないのだと。


今日も裏社会の市場では盗まれた美術品が国を超えて売買され、麻薬密売人のシケたアパートのベット下には、日の目を見ない名画が汚い毛布にくまれているのかもしれません。この本を読む限りにおいて、美術品を盗む奴らは盗品の芸術的価値など全く理解しておらず、「ブツ」を貴重に扱うなんてことには、これっぽっちも神経が働かないようですから。


ちなみに、ムンクの「叫び」は2004年にも再び盗まれていますが、それは本書とは別バージョンの「叫び」。今はまさにトリノ・オリンピックの真っ最中。時期を狙っての発売なんでしょうか。2004年の事件の様子は、下記のエントリに以前少しだけ書きました。