2006年5月1日月曜日

武満徹展に行って、映画「黒い雨」を観る

東京オペラシティアートギャラリーで開催されている「武満徹-Visons in Time」展に行ってきました。会場に着いたら、今村昌平監督の「黒い雨」(1989)が丁度これから上映されるとのこと。途中で出ても良いらしく、ついでだから観てやるかと軽い気持ちで席に座ったところ、これが結構面白くて結局最後まで観てしまいました。
武満展なんだから、音楽について書くべきなんでしょうが、映画に集中しちゃって、不安気な雰囲気を誘う音楽ということ以外、あんまり音楽のことは覚えていない。ラストの音楽もどんなだったかしら?
映画は井伏鱒二の小説の映画化なので原爆被災者を扱っていて重い。しかし家族の崩壊の様子とか、お互いの傷を認め合うことによって芽生えた救いの愛とか、そういうテーマ性に感動するよりも、川又昂撮影による映像に圧倒されっぱなしでした。1989年の作品なのですが、よくぞこういう農村風景とそこに生きる人達の姿を撮りきったものです。(農村風景ということでは、濱谷浩氏の「裏日本」なんかを思い出します)
かつては存在した農村的共同体や農村的風景が、嫌になるほどのリアリティを持っています。
映画を観ながら、かつての日本から失われたものが、ここに描かれた家族たちのささやかな幸せだけではないことを否応にも気付かせてくれます。
演技的には、清楚な雰囲気を出し切った田中好子に好感が持てると同時に、叔父夫婦を演じた北村和夫と市原悦子が抜群の味。特にコンプレックスを背負った生き方をしている市原演ずる妻が何とも哀れ。そういう形でしか自己実現ができなかった時代であったのだと。いや、それは今の時代も一緒でしょうか。

武満徹展のことも何か書かなくちゃならないでしょうね。武満氏の楽譜とか抽象画とかが展示されていて、それなりに楽しめました。特に楽譜は、図形楽譜でない普通のものであっても、それ自体がアートとして成立しています。近代建築を代表するコルビジェの図面をふと連想してしまいます。
また武満氏が好んだアーティストの作品も展示してあるので、武満ファンは満足することでしょう。私は熱烈なファンではないし、前日に本展示の公式ガイドブックを池袋ジュンンク堂でしっかり眺めていたので、展示内容に意外性はありませんでした。
それでも展示空間的にも武満氏の几帳面さとイノセントさが際立っていて良い雰囲気です。ただ武満氏の音楽を延々と流しながら抽象的なビデオを流している展示とかは、私には馴染めません。そもそも私は抽象が苦手ですし、畢竟根っからの武満ファンには、なれそうもないのなあと感じる展示内容でもありました。