2006年10月10日火曜日

桐野夏生:グロテスク





以前の偶刊-ポセイドニオス堂慥かにこの人の筆は凄いと桐野夏生氏が紹介されておりました。浮月氏が紹介するくらいですから、これは確かであろうと読んでみた次第。私はミステリー・ファンでも読書家でもありませんから、ベストセラー作家である桐野氏の作品を読むのはこれが初めてですが、確かに驚きましたね。



しかし、何と言う物語でしょう。筆致は凄いが書かれている内容も凄惨。桐野氏はこの世の差別のすべてを書いてやろうと思ったのだそうです。「差別」とは他者に対する優越感、他者への容赦ない哄笑、仲間意識、色々な複雑な感情が込められています。日本には階級差別はタテマエ上ないことになっていますが、周知のごとく学校や職場でのイジメを含め、階級や派閥、そして差別のない集団など皆無でしょう。絶対に越えられない壁の存在、そういう差別社会の中での厳しいサバイバルと「解放」が嫌と言うほどに描かれています。特に女性がサバイバルするということはどれくらいに過酷なことなのか。浅はかな私のような男性には想像だにできない世界です。


勝つとか人より優れるとかいうこと。その底には、自分が自分であることを確認するという作業が潜みます。しかし他者の目を通してしか「自分であること」を確認できない現代の生。そこに潜む圧倒的な孤独みたいなものが透けて見えて、その暗さと深さには背筋が寒くなるほどです。狂おしい程に求めそして堕ち続けた彼女達、あるいは闘争から引くというサバイバル戦術を取った彼女=「わたし」。誰もが最後には、自分の存在を確認するために自らを滅ぼしてゆきます。


迸る悪意。他者と自分の、理想と現実の乖離。都合の良いように嘘に塗り固められた過去。救いようのない物語・・・。読んでいて吐き気を催すほどで、その生き様はまさに「グロテスク」。しかし、それ程までにして描ききった彼女達の生は、(ラストはちょっと甘いと感じたものの)小説という虚構を通して再構築され、彼岸の彼方へ昇華されてゆくかのようです。