2007年9月19日水曜日

ガッティでストラデッラのオラトリオ《スザンナ》を聴く(3)

前回から随分と時間があいてしまいましたが、涼しくなってきましたので「ストラデッラの《スザンナ》を聴く」の続きを書くこととしましょう。 オラトリオは大きく、二幕構成になっています。

第一幕は二人の審判(GIUDICE IeII)が自らの抑え切れない欲望を歌い、そして遂に、スザンナの沐浴中に彼女に襲いかかります。しかし、スザンナに拒否され召使に見つかってしまったため、逆にスザンナが不倫をしていたと偽りを言い、スザンナを貶めるまでです。

第ニ幕はスザンナの牢獄から始まります。無実であることと神への助けを求める心と、理不尽な死への恐怖の間を揺れ動く心を切々と歌います。遂に彼女の死刑(縛り付けられたまま、市民に石をぶつけられて死ぬという刑)が執行されようと群集の中に連れ出されたとき救世主たるダニエルが登場します。ダニエルは二人の審判を別々に審問し、その虚偽を明かし、逆に彼らに死罪を言い渡し、めでたしめでたしとなるまでです。

曲はレチタティーヴォとアリアや二重唱やコーラスが交互に歌われます。三重唱(Terzetto)も一曲だけあります。レチタティーヴォは、それぞれの登場人物の台詞や心象であるとともに、テキスト進行や解説の役目も果たしています。TESTOとされた部分がそれです。
一般にレチタティーヴォというと、アリアの間のツナギみたいな印象を受けますが、ストラデッラはレチタティーヴォでもしっかり歌わせています。

レチタティーヴォのテキスト進行役にカウンター・テナーを配したというのは、非常に素晴らしいアイデアだったかもしれません。最初のシンフォニアが終わった後、カウンター・テナーの声が聴こえてきたときには、全く意表をつかれてしまい、思わず息を飲んだものです。もっとも、更に息を飲む場面はもう一箇所用意されていたのですが、これは後で書きましょう。

伴奏はハープシコードとオルガンの通奏低音に第一、第二バイオリン、ヴィオロンチェロ、コントラバス、それにarpa doppiaと呼ばれるイタリア・ルネッサンス期のハープ(→Wikipedia)によるアンサンブルです。この小編成のアンサンブルが極めて秀逸です。小気味良い劇進行、歌手陣をしっかりと支え、引き立たせ、そして場合によっては対等の対話を行います。好色と狡猾故の陰鬱な物語ながら、イタリアの乾いた風を感じさせる心地よさが全編に漂うのは、アンサンブル・アウロラの伴奏のせいかもしれません。

曲の最初のシンフォニアだけでも聴いてみると良いかもしれません(買わないと聴けませんが)。ノンヴィヴラートの単調なヴァイオリンの響きによる短い導入はスザンナの内面を表象するかのような暗さを湛えています。その後、打って変わって快活な悦びが満ち溢れ、神への感謝と崇高ささえ感じる音楽となります。ガッティは自在に歌い、流麗に流れ、その馥郁たる響きは惚れ惚れするほどです。ガッティ好きならば、シンフォニアを聴いただけでニヤニヤしてしまうかもしれません。

このように、そもそもといえば、ガッティのヴァイオリンを聴こうと思って購入した盤ではありました。ところが繰り返し聴くにつけ(そう、繰り返し聴くに値するのです)、曲の美しさがジワジワと染み出してきまして、いまやガッティのヴァイオリンがなくとも(いや、「ない」と困りますが)愛すべき盤となってしまいました。それ程にストラデッラの曲が美しいのです、歌手陣も良いのです。

ガッティはマイナーな曲の発掘に精力を傾けていますが、彼が敢えてこの曲を選んだわけも分かろうというものです。



せっかく再開しましたが、今日はここまでです。その後のエントリはまだ白紙です。誰に読ませるでもない、個人的な「覚え書き」ですからね(^^;;。
次は、曲をひとつづつ解説するのも何ですのから、聴き所がどこかということを簡単に書こうと思ってはいるのですが、はてさて、いつになりますか。

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