2007年12月24日月曜日

梅田望夫:ウェブ時代をゆく


本書はITが普及した現代はにおいて、旧来型の組織や職業のあり方が大きく変容するだろうことを、グーグルなどの先端企業や福澤諭吉を引き合いに説明し、若者に対し「人はなぜ働くのか」「いかに働き、いかに学ぶか」を示しています。オープンソースが成功するような社会においては、大組織のような枠組みだけではなく、他にも生きる道があることを、自らの経験をもとに繰り返し説明しています。ドラッカーの本と同様に、単なるITやビジネス本ではなく、人生の指南書という意味合いが強い本です。

旧来型の組織とはいかなるものでしょう。一言で言えばネットの特質を有効活用していない、あるいはできない組織ということでしょうか。ネットの特質が何かは本書に繰り返し書かれています。私は自分なりに「フラット化」「自然発生的知のヒエラルキー」「空間的・時間的概念の消失」「同時性」「一対多あるいは多対多結合」と考えています。そこから得られる「知」のエネルギーは確かに凄い。

梅田氏の主張は彼自ら認める楽観主義がベースになっているものの、ネットを善なものと肯定し、そこに多くの可能性を求め多様な選択をするという生き方は、既にどっぷりと旧来型組織の構成員に成り切っている私にとっても充分に刺激的内容でありました。

自分に即して考えるなら、私は現在46歳ですから、あと15から20年間はどこかで働き続けることになります。私はどちらかといえば旧世代に属しますから、梅田氏の言うように見事に大組織適応性を高めてサバイバルしてきたわけです。ちなみにP.93の7つの設問は幾つかの部位を除いてかなり合致します。これからもその傾向を強化することはあっても変えることはないでしょう。また私と同じ組織で働くパートナー(あえて、上司とか部下とか同僚とか定義せず)にも、同じ資質を求めるでしょう。しかし、ネットの重要性については、仕事にどこまで利用しているか否かは別としても今更なことです。

梅田氏が主張するのことで、最も引っかかったことは「好き」ということをとことん突き詰めるということ、そのことです。「好き」なことをやって飯を食えるようになる。そのためにはどうするか、ということなのですが、彼は徹底的な思考実験にも似た事を繰り返しながら追求することが必要だと書いています。それを彼は「ロールモデル思考法」として説明します。これは単に誰々のようになりたいとか、誰々のような生活がしたいとかの曖昧なものではありません。

自分の内から湧き出てくる何かが具体的にみえずとも、「ある対象に惹かれた」という直感にこだわり、その対象をロールモデルとして外部に設定する。そしてなぜ自分がその対象に惹かれたのかを考え続ける。それを繰り返していくと、たくさんのロールモデルを発見することが、すなわち自分を見つけることなのだとわかってくる。自分の志向性について曖昧だったことが、多様なロールモデルの総体として、外部の世界からはっきりとした形で顕れてくる。(P.120)

このロールモデルは一回やったら終わりではなく、行動と新しい情報により、次々に消費し再構築してゆくものだと梅田氏は言います。その中で、自らをコモディティ化しないようにロールモデルの引き出しを少しずつ増やす努力をしていったという戦略は見事です。

私は、今まではどちらかといえば「好きこと」よりも「やるべきこと」を選択してきました。親や世間からは「好きなこと」で飯を食うのは困難だと言い聞かされ、その道に進む人を若干斜めの目で見てたことも否定できません。しかし、現在においては、やり方次第で自分の能力に対価を払わせることは可能なのだというのが梅田氏の主張です。

これらの提言は、これからの若者にのみ当てはまる戦略ではないように思えます。多様性と流動性のもつ力、ネット社会が提供するパラダイムを、私たちとて無視することなどできません。氏の提言する内容は、最終的には個人のサバイバル戦略であり、よりよく生きるための示唆を含んでいます。それ故に自らを前向きに考える者の琴線に触れる部分があるのだと思います。

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