2008年12月21日日曜日

柴田哲孝:TENGU




帯にあるように「第9回 大藪晴彦賞受賞作」とのこと。この本が大藪晴彦の名に値するかは議論が分かれましょう。今年話題のミステリーでもと思って書店の平積みを手に取ったものですから、この作家を読むのは初めて。果たして読んでみますと、確かに筆力はあるし、面白い。一気読みです。

しかし、着想の奇想天外さと結末に向けての造りこみに納得ができるか。ベトナム戦争、911テロ、国家レベルの隠蔽交錯など、広げた風呂敷は大きいものの、結末は"これかよ"みたいな大きな肩透かし。種も仕掛けも裏もないんですよ。ですから壮大なミステリーを期待する向きには、失望と甘さを禁じえないでしょう。そういう意味では「剛球」勝負の作家といった印象。

本書を大藪賞たらしめる理由があるとすれば、それはアウトロー的男のロマンを土台とした作風にあるのでしょうか。作者自身が、海外の秘境に釣行するアウトドア派で、パリ~ダカール・ラリーにも参戦などのプロフィールを読むと、疼きを覚える人も多いはず。作中人物に作者の姿がかなり投影されているらしい。


そういう輩の思い描く「男のロマン」とは、しかし客観的に見ると、これほどまでに子供臭く身勝手なものなのかと呆れてしまうほど。主人公や周辺の男達の人物像に感情移入できるか否かが本書の評価の分かれ目になるでしょう。


さらに酷い(と言い切ってしまいますけど)のは女性像。男の理想系でしか描かれず、一時代前の小説を読むかのようです。彼女達を「やさしい女」「理想の女」「天使」と見るか否か。バカバカしくて、ちょっと笑ってしまいます。因習の村の扱いも作者の女性像をフレーミングするためのプロットでしかなく、深みに欠けます。


まあ、そういう批判はイロイロありましょうが、です。男というのはかくもバカな生き物だと「やさしい女」たちに赦してもらいたいということなんでしょうかね。


それであっても、彼のデビュー作となった「下山事件 最後の証言」を、彼の筆致で読んでみたいという気にはなりました。私はバーボン派でありませんから、上質のシングモルトでも用意して。そう、バカな男にはスピリッツがどうしても必要なんです。