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2001年7月20日金曜日

アムランのピアノ バーミンガム市響による ブゾーニのピアノ協奏曲



「レコード芸術 6月号(2001)」に『名曲!?奇曲!? ブゾーニ《ピアノ協奏曲》の魅力 M・A・アムランによる日本初演事件簿』(高久 暁)として、この曲が紹介されていた。アムランといえば、超絶技巧のピアニストとして知られている。音楽関係のBBSなどを眺めていると、賛否あい半ばする形で語られているのを目にするが、高度な技術を有する演奏家にはよくあることだ。

ピアノ・パートは難しい、と言うも愚かなほど難しい(長木誠司)というブゾーニのピアノ協奏曲をアムランが演奏しまた録音したというのだから、モノ好きだとは思うが聴いてみたいと思うではないか。さっそく、札幌のPALS21に出かけてCDをゲット。店員さんに「アムランに興味があるのですか?」と聞かれても、なんだかアムラン買うの初めてですと言い出せず、「はあ・・」と曖昧な返事を返すのみであったが、親切にもhyperionのチラシを渡してくれた。心の中で(ええ!? こんなにCD出しているんだ! と恥じ入る)

さて、まず聴いてみて非常にびっくりした。ブゾーニというから知的で緻密な音楽が展開されているのかという、訳のない先入観を持っていたが、ものの見事に覆された。なんだか良く分からないけど凄い、かっこいいと思った。爆発するようなエネルギーを撒き散らしているような男性的な音楽だ。

何度か聴いてみたのだが、繰返し聴くにつけ、すさまじき音楽であると思う。力強さ、爆発するパワー、グロテスクさ、はじけるような陽気さ、春の祭典的な雰囲気さえ漂わせながら怒涛のごとく進む音楽の威力には圧倒されるのみだ。不勉強にして知らなかったが、ブゾーニはイタリア人であるらしい。そう思って聴いてみると、これまた先入観のなせる技か、レスピーギのローマ三部作をふと思い出しながら聴いてしまう。(曲は全然似ていないけどね)

解説は英語なので、レコード芸術と、拙い読解力で把握したところによると、この曲は全部で五つの楽章に分かれている。第1楽章は「プロローグと入祭唱」、第2楽章は「おどけた楽曲」、第3楽章は非常に長く「厳粛な楽曲」「序奏」「最初の部分」「次の部分」「最後の部分」に分けられている。第4楽章は「イタリアの風に」そして第5楽章はデンマークの作家、エーレンスレーアの「アラーへの賛歌」が歌われる。

ブゾーニ自身の妻に当てた手紙によると、1、3、5楽章は三つの建築物を意味し、間の二つはスケルツォとタランテラを配した構成だという。三つの建物はそれぞれ、"Graeco-Roman"、"Egyptian"、"Babylonian"とされているらしいが、私にはそれらを視覚的にイメージできる知識はない。

レコード芸術の長木氏とのインタビューで、アムラン自身が作品のパワーや魅力は正しく演奏すれば自ずから分かる音楽作品に付いて絵画的あるいは思想的な連想や考えは持ちません。それは結局音楽そのものではないので…と語るのは意味深い。しかし、聴きながらどうしても、「言葉」による手がかりを求めてしまうことを避けることができない。

これらの曲からイメージされるものは、壮大にして荘厳なるイメージやら(1楽章)、非常に暗くグロテスクな舞踏であったり(2楽章)、荘厳にしてかつ暴力的なまでのカタストロフィクを感じたり(第3楽章)、猛烈なエネルギーの爆発による生命力の発散だったり(実際「ヴェスヴィオス火山の噴火」とされる)、自然の神秘に対する畏敬だったりする。また、爆発するばかりではなく、ピアノとしての美しさも十二分に堪能できるところも多い。

第四楽章の圧倒的コーダの後に配置された、長調から短調に至る非常にテンションのピチカートの戦慄(not 旋律)や、ピアノのことなど何も知らない私には理解できないくらいテクニック的に難しいらしい、重音のトレモロやら畳み込むようなピアノの轟き、圧倒的なカデンツァなどなども舌を巻く(アムランが「殺人的」というくらい)。第5楽章コーダの男性合唱の美しさと力強さといったらどうだ。

とにかく上品な曲ではない、名曲でもないかもしれない。しかし、この圧倒的な恐ろしく南イタリア的な太陽と空気が、さながら熱風のように聴く物の体を吹き抜けてゆく快感!

ブゾーニ自身が、「建築物」にこの曲を例えたように、通して聞いてみてもまた、ある楽章だけ取り出して聴いても、骨格がはっきりした(ある部分ピラミッド的な美しさを感じる)音楽に聴こえ、決して奔放にして放埓なだけの音楽ではないことも確かだ。従って聴いた後には、何と言うか壮大なる旅をしてきたかのような満足感に浸ることが出来るのだ。ああ、イタリアに行きたい!と思うよ。

もはや、こればかりは聴いてもらうしかない。他に類例がないと思われるこの音楽を言葉にするには余りにも語彙が不足しており、これ以上書き続けることの限界を感じてしまうのであった。

  1. Prologo e intorroito (15:38)
  2. Pezzo giocoso (9:47)
  3. Pezzo serioso:Introductio (4:02) Prima Pars (4:43) Altera Pars (11:30) Ultima Pars (2:57) 
  4. All'Italiana (12:17)
  5. Cantico (10:50)
  • 指揮:マーク・エルダー
  • ピアノ:マルク=アンドレ・アムラン
  • 演奏:バーミンガム市交響楽団
  • 録音:June 1999
  • hyperion CDA67143 (輸入版)

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