ページ

2003年4月15日火曜日

櫻井よしこ「迷走日本の原点」


櫻井よしこの本(「日本の危機」 「大人たちの失敗」)を読んでいると、彼女の一貫したスタンスが見えてくる。彼女は改憲派に属しているし、いわゆる「新しい日本の歴史教科書」や靖国神社などに賛意を示している。
そのような点から彼女を「タカ派」とか「右派」とか決め付けることは問題の本質を見失うことになってしまう。彼女は朝日新聞も批判しているが産経新聞も同じように批判しているのだ。彼女にはどこかに寄りすがるというスタンスはみられない。
彼女が主張するのは、個人であれ国家であれ「自立的であれ」ということに尽きている。その点において私は彼女を信頼できるジャーナリストだと思っている。
彼女は自立した国家であるならば「軍隊」を保有しないことなどありえない、真に国益を守るための外交を展開するには、自国に誇りをもち、国際社会で対等の立場で主張するためには「力=武力」がなくてはならないとしている。
この本の目次をひろってみよう。
第1章 行革を骨抜きにする官僚たちの反撃 第2章 経済至上主義が日本を呪縛する 第3章 生き残った系列システムの毒素 第4章 憲法改正がいつも挫折する理由 第5章 税制が日本の自立を阻んでいる 第6章 平等意識が学校を崩壊させた 第7章 国籍と参政権を曖昧にするなかれ 第8章 防衛意識が育たないこれだけの理由 第9章 国益を見失って久しい外務官僚 第10章 バラマキ農政のアリ地獄 第11章 フリーター200万人の漂流
実に巧みに、官僚批判と国家意識の欠如、そして個人の自立性の欠如を繰り返しくりかえし述べている。農業がダメになったのもフリーターが増えたのも、ひとえに官僚主導の間違った保護行政からの自立心の欠如、間違った歴史認識による国家意識の欠落に起因していると説く。
間違った歴史認識とは何か。彼女はロバート・スティネットの『欺瞞の日~FDRと真珠湾の真相』(Day of Deceit)を引き合いに出している。同著は日本の真珠湾攻撃がアメリカの緻密な陰謀であったことを開示された595点の資料を引用しつつ暴いた本だ。今では真珠湾攻撃が「アメリカがあらかじめしくんだ奇襲」であることは一部では認められた事実である。
それについて京都大学の中西輝夫教授の「歴史上の本当に重要で決定的な資料というものは(中略)その出来事から少なく見てニ世代を経なければ決して世に出ることはない」という「正論」2000年10月号を引用し、"とすると、戦後五十年余、これまで日本人が信じてきた第二次世界大戦の意味と位置付けの再検討作業は、実はこれからはじまるのだ"(P.71)と主張する。
これらのスタンスには、私も賛意を覚える。彼女が国家に自立的であれと叱咤激励する様にもエールを送る(っていうか自分で何とか動けよなとも思うが)。
それでも、彼女の主張に違和感を感じるのは改憲と軍備についてだ。北朝鮮の脅威がありながら日米安保に依存する日本の姿は確かに危ういと感じさせる。日本領海に中国の調査艦や北朝鮮の工作船が進入しても何もできない日本にだらしなさも感じる。
では改憲した上で独自の軍隊を保有するののが正しい道なのだろうか。力ももたない交渉に意味がない、武力のない国際社会など書生論であるのかもしれない。しかし、では軍備の果てはどこにあるのか。
昨日のニュースで自衛隊が大量破壊兵器であるクラスター爆弾を既に保有していたことが報じられていた。軍備を増強するということは、この先迎撃ミサイルシステムを開発し、偵察衛星をいくつも打ち上げ、そして日本は核までを保有しなくてはならないということなのか。力の拡大のゴールはどこにあるのか。そこのところまでは櫻井氏は言及していない。
逆にそこが見えない以上は、軍備増強には私は懐疑的にならざるを得ない。国が国として自立しなくてはならないことは認める。自国の歴史を正しく認識し、内政干渉を受けない態度を示すことも重要だ。彼女は畢竟、日本人の「幸福論」を述べている。しかし「武力」を有することが幸福につながるのか、真の自立につながるのか、今の私には見えない。

0 件のコメント:

コメントを投稿