2002年6月24日月曜日

歌劇「ローエングリン」全曲 ショルティ指揮/ウィーン・フィル

2002年6月17日(月) ボックス届く、封を切る

HMVに注文したショルティのワーグナーコレクションが届いたことは音楽雑記帳に書いた。

届いた日は、あまりの量の多さに改めて呆然。解説もついているが輸入版なんで英語も満足に読めない私には暗号でしかない。Palmの辞書片手に読み始めるが、字が小さく眼が痛い・・・今日は、封をあけておしまい!寝る!

2002年6月18日(火) 第一幕前奏曲を聴く

せっかく初モノを聴くのだから、聴いている過程をそのままトレースしてみることにした。つまりは、体験したことを脚色せずに、読み手のことも考えずそのまま書く。

ワーグナーコレクション、まずは「ローエングリン」から聴くことにした。どうして「ローエングリン」か? 吹奏楽をやっていたものにとってワーグナーというのは、序曲だとか前奏曲だけは馴染みが深い。タンホイザーやらマイスタージンガー序曲を演奏された方も多いのではないだろうか。ローエングリンは第一幕や第三幕への前奏曲が有名である。特に第一幕前奏曲はゆったりした曲調と美しさは印象的だ。かの有名な結婚行進曲も入っている。

そんなわけで、「ローエングリン」からはじめることに決心したわけである。しかし学のない私、「ローエングリン」て何よ? というので、手っ取り早くGoogle検索。以下のサイトで情報を得る。

http://www02.so-net.ne.jp/~ars/lohengrin.html
ローエングリンよもやま話
後者のサイトの説明はわかりやすい。「独逸版 鶴の恩返し」てのが笑える。ローエングリンが白鳥にひかれて登場するってのも素敵だ。聖杯王てのも良くわからないが魅力的!

登場人物の名前もイケてる。主人公のエルザに、白鳥になっちまったエルザの弟ゴットフリート、敵対するテルラムント伯爵にその魔法使いである妻(なんじゃそりゃ=奥様は魔女かよ)オルトルート、舞台はアントワープ、なんて素敵なひびきなの。

名前を聞いているだけで、一気に中世の騎士の世界(あるいは銀河英雄伝説の世界)へひとっとび。で、前奏曲だけ聴いて今日は寝る!

2002年6月19日(水) 第一幕をとりあえず聴く

それにしても前奏曲の美しさといったらどうだろう。耽美的というにはコトバが足りない。ショルティ/ウィーンフィルのクリアにして精密な音作りは、ものすごいテンションをもったまま始まる。
そしていよいよ、第一幕ははじまった。

第一幕は、エルザが無実の罪を着せられてから、ローエングリンが現れてテルラムント公爵と戦い勝つまで。それにしても強引なストーリーだ。しかし音楽はすごい、ぞくぞくするような快感が立ち上る。

「こ・これがワーグナーなのか」

と思わず唸ってしまう。映像はなくとも引き込まれる思い。

しかし、せりふを読んでいないから何が何だか未だわからない、どの声がどの役なのかさえまだ掴んでいない。こんなことでワーグナーを聴いていると言えるのか?

やっぱり解説本は必要だなと思って今日は暮れる。

2002年6月20日(木) 改めてこの演奏について

歌詞が分からないどころか、誰が歌っているのかさえ知らずに聴いていた(ヒドイ聴き方!)。改めてライナーを参照してみると、










プラシド・ドミンゴ(ローエングリン)
ジェシー・ノーマン(エルザ)
エヴァ・ランドヴァー(オルトルート)
ジークムント・ニムスゲルン(テルラムント)
ハンス・ゾーティン(国王ハインリッヒ)
ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(軍令使)
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団(合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン・グロール)
1985年11&12月、1986年6月

この陣容が凄いのかどうかは、オペラ無知の私にはわからない。でも土民児いやドミンゴが白鳥の騎士ですかア! ディースカウも歌っているのね、ジェシー・ノーマンも名前だけは知っているわ。
それに今日まで、オケはシカゴ響だと思っていたのに、ウィーン・フィルなんぢゃない!(前の間違いは直した)

「おおシカゴはさすがに精緻で精密な音を聴かせるな、それに甘さも繊細さもあるな」なんて思っていたのに、ウィーンだったのね・・・・どうせそんなものよ。

ということで、オケと配役がわかって満足、今日はここまで。

2002年6月21日(金) そして第一幕を聴き終える

さて、対訳(英語だけどね)を読みながら第一幕をやっと聴き終えた。

第一幕を聴いてみての印象というと、すっかりワーグナー節に嵌ってしまったというのが正直な感想だ。前奏曲も良いが、ローエングリンが白鳥に乗って現れるところの曲の美しさといったらどうだろう、目くるめく思いがする。そして、その後のエルザとの誓い、畳み込むような決闘前の熱唱、ローエングリンの勝利の唄など聴き所が多い。

「ローエングリン」をワーグナーの代表作として挙げる人は少ないと思う。でも入門用にはとっつきやすい曲である、と何かで読んだ。ローエングリンの第一幕だけ聞いて「ワーグナーの音楽は・・・」などと早計なことは、さすがにオッチョコチョイの私でも書けない。

でも、何故ワーグナーがこれほどまでに偏愛されているのかが、少しだけ分かったような気がする。オーケストラと合唱が、グチャングチャンに入り混じってソプラノが駆け上ってゆくような音響を聴いていると、脳天が麻痺してしまう。マーラーのイイところが延々と続くような(たとえば復活のラストのような)快感だ。

さて、細かいことは気にせずに第二幕に突入することとしよう。聴かねばならないCDはまだ20枚もあるのだ。

2002年6月22日(土) ワーグナーの歌劇についてちょっと調べる

考えてみたら、「ローエングリン」というのはワーグナーの歌劇の中でどういう位置付けなんだろう、とサイトで調べてみた。

すると、"ワーグナーは、「ローニングリン」を書き終えた段階で「私はもうオペラ(歌劇)は書かない」と言った"という記述を見つけた。どういうことなんだ?? と思っていたら、ローエングリン以降の作品は楽劇というとあるではないか。(飯守先生インタヴュー~ワーグナーと『指環』を語る(新交響楽団HP)

うーん、よく分からないが、そうだったのか(^^) 無知とは恐ろしいものだ・・・。

で、ワーグナーの作品を年代順に調べてみると、以下のようになることも知った。

歌劇「さまよえるオランダ人」全3幕 1841~42年
歌劇「タンホイザー」全3幕 1843~45年
歌劇「ローエングリン」全3幕 1846~48年
楽劇「トリスタンとイゾルデ」全3幕 1857~59年
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」全3幕 1862~67年
楽劇「ラインの黄金」全1幕 1853~54年
楽劇「ワルキューレ」全3幕 1854~56年
楽劇「ジークフリート」全3幕 1856~71年
楽劇「神々の黄昏」序幕と全3幕 1869~74年
舞台神聖祝典劇「パルジファル」全3幕 1877~82年

��以上ワーグナーの作品紹介(ワーグナーの歌劇な部屋)を参照した。
ここまでたどり着いてなお"で、「指輪」は入ってないの?"などと大ボケをかましているのであるが、無知とは恐ろしいものだ・・・。

そして第二幕を聴く

さて、その第二幕は、戦いに敗れたオルトルートとテルラムントが、ローエングリンとエルザの結婚式の前に彼女をそそのかす場面だ。つまり、「素性を明かさないなんてとんでもない、決闘に勝ったのも魔法を使ったからだ」とエルザに告げ彼女を惑わすのだ。

まあ、言っていることも分からなくもない。せめて名前だけでも知りたいと思うのは人情というものだ。しかし、決して親切心でエルザに告げているんでないから、やっぱり悪いやつらだよな、性根が腐っている! オルトルートは魔法使いであり、かつ異教徒という設定らしい、こういう感覚はキリスト教に親しんでいないと分からないよな。

次第に膨らむエルザの疑惑とローエングリンの悲嘆は聴いていて胸が痛くなるほどだ。このシーンは人間的な葛藤と欲望、詮疑などがドロドロと渦巻き大きな聴き所になっていると思う。

そういう中にあって、第4場の音楽の美しさは圧倒的だ。エルザが行列をひきいて寺院に詣でようとする場面だが、木管で導かれる動機を聴くだに思考が停止し感涙してしまうほどの美しさだ。このよく知られているフレーズが、こういう場面で登場しているものとは、想像だにしなかった。

劇としてもこの第二幕の後半は大きな山場であると思う。

2002年6月23日(日) 第三幕を聴き終える・・・

第三幕の前奏曲は余りにも有名だ。金管群が咆哮し爆発するような音楽は吹奏楽向きの曲かなと思うが、この前奏曲に導かれる形で、かの「結婚行進曲」が現れてくるとは、これまた知らなかった。何たる劇的な音楽に仕上がっていることだろう。そして、あれほど通俗名曲として陳腐化しているフレーズが、かくも優しく、そして哀しく美しいとは!

ストーリーを知った今となっては、後の破局が見えているだけに、この結婚行進曲の美しさは逆に痛ましい。もはや第三幕は涙なくしては聴けない音楽=劇に仕上がっている。すっかり感情移入してしまっている自分に気付かされる。

エルザの嘆願と、ローエングリンの嘆きと告白、そして突如として現れた白鳥とエルザの驚愕の叫びの劇的なこと!

Die Frauen
Der Schwan ! Weh,er naht ! ( The Swan! Woe, it approaches ! )
Alle Manner
Er naht, der Schwan !
(The swan appears round the foremost bend in the river.)
Elsa
Entsetzlich ! Ha,der Schwan ! (O horro! Ah,the swan !)

ここに至って、私は、ワーグナーの音楽と劇の不可分なる世界を垣間見た思いがした。なぜなら、歌詞を追っていたその目の前に、まさに白き白鳥の姿が確かに見えたのだ。
ローエングリンを聴き終えて

日記風の体裁を取りながらローエングリンを聴き終えたが、上演時間3時間にわたる歌劇である。しかし、それでも聴き取れない所は二度、三度と聴きながら約1週間かけた。

ワーグナーは数夜に渡って上演されることもあるので、こういう聴き方も良いかなと思ったが、何か見えざる力でぐいぐいとひき込まれるような思いであった。ワーグナーの歌劇は麻薬のようなところがあるみたいだ。

ショルティ/ウィーンのこの演奏も、クリアで非常に良いパフォーマンスであると思う。初めて聴いた印象では、悲劇のエルザ(ジェシー・ノーマン)よりも魔女のオルトルート(エヴァ・ランドヴァー)の方が印象深いのは、映像を見ていないせいだろうか。

いずれにしても、初めて聴くワーグナーではあったが、長さゆえに敬遠しているのはもったいないと思わせるに充分であった。さて、次は何を聴くべきやら・・・