2004年5月1日土曜日

酒井啓子:イラク 戦争と占領


イラク関連の報道番組ではおなじみになった酒井啓子さんの近著です。アメリカ主導によるイラク戦争が開始されてから、13年振りに現地を訪れた酒井氏がイラク「解放」の実態と問題点を、イラクの歴史的経緯を踏まえながら丹念に書き上げた本です。

本書を読むと、イラクがいかにイギリスやアメリカによって恣意的に扱われてきたかが嫌というほどによく分かり、イラク国民の期待と希望と、そして幾度と無き裏切りと占領によって国家を蹂躙されている歴史がまたしても繰り返されていることに、驚きと憤りに近い感覚を覚えます。

田中宇氏の「イラク」でも書いていましたが、イラクは誇り高い国民です。いや誇りを捨てた国民などいないのですし、自国に愛着を抱かない国民もいないはずです。更には自国の平和を願わない国民だっていないはずです。

しかしイラクはそれらをことごとく奪われてきたといっても過言ではないかもしれません。今回の戦争は独裁者からイラク国民を解放したという点では一時的に歓迎されましたが、アメリカのフセイン後の統治政策の無策により、当のアメリカがフセインとなんら変わらない存在になってしまったことということについては、酒井氏は何度も指摘しています。

この本を読むと、イラクの国民の中でも民主化政策に対する考え方については、統一的な考えが醸成されるまでには至っていないことが分かりますし、戦後の混乱に乗じて様々な勢力が台頭し新たな紛争が始まる気配についても感じることができます。でも、それ以上にアメリカが中東に招いたそれを上回る不振と混乱は、どう贔屓目に見ても支持できるものではないようですし、アメリカによる中東戦略は平和と安定ではなく戦争と混乱しか引き起こしていないことを、ジャーナリストはもっと喧伝すべきなのかもしれません。

そのようなアメリカに議論もなく追随してしまっている日本国政府とそれを支持しているらしい日本国民は、イラクに住む人から見るとアメリカと同列と見なされても止むを得ない面もあるのだと思います。人質事件は起こるべくして起きた事件ですし、それを契機として日本でなければできない貢献の仕方というものが、どこかにあるのではないかと思わずにはいられません。

アメリカのイラク攻撃と自衛隊派遣に賛同する人は、えてして保守派層が多いと思います。その彼らが憲法改正や自主憲法制定、対米追従の見直し、国防の増強を主張するということに、今の時点では疑問を感じざるるを得ないことを蛇足ですが付記しておきます。