2019年の第16回チャイコフスキー国際コンクールは藤田真央が2位となり、アレクサンドル・カントロフ Alexandre Kantorow(1997-)が優勝したことは記憶に新しいところです。藤田さんの演奏も類まれな素晴らしい才能を発揮したものでしたが、カントロフの演奏はそれを上回る評価を受けました。
https://music.apple.com/jp/album/brahms-piano-works/1594418802
本アルバムは2021年3月、カントロフのオール・ブラームスプログラムで、フランスのゲブヴィレールのドミニカ教会で録音されたものです。
最初のブラームスのバラード集Op.10が鳴り始めたとき、背筋に鳥肌が立つような感覚を覚えました、これは只ものではないなと。この自分のファーストインプレッションと全く同じ感覚を、音楽評論家の青澤隆明さんも感じており、「ぶらあぼ」に以下のように書かれています。
アレクサンドル・カントロフのピアノが鳴り出した途端、俄かに背筋が寒くなった。
どうしてそうなのかはわからない。だが、こういうときはいつも決まってそうなのだ。
最初の音で、その人の才気は伝わる、存在が知れる。瞬く間に、期待は沸騰する。
全くその通りなんです。バラードOp.10は1854年夏、ブラームス21歳の時の作品。全く隙のない、それでいてなんとも言えないふくよかさと力強さを秘めた響きと音楽。まさに陶酔するような演奏です。
Youtubeに動画がありましたので、貼っておきます。
カントロフの音色の関して、もう一度青澤さんのレビュウを引用しましょう。
アレクサンドル・カントロフは、特別な音をもっている。それは、音色というように切り離して感じられるものではもちろんなく、音楽全体の表情と密接に繋がっている。
続くピアノソナタ第3番は1853年、シューマンの住むデュッセルドルフで書き上げられており、5楽章形式の構築的な作品です。この前、アダム・ラルームが弾くこの曲の演奏をこき下ろしたばかりですが、カントロフの演奏にはぐいぐいと引き込まれます。よく聴けばラルームのように唸り声のようなものも聴こえます。しかし、それが耳障りになりません、この違いは音量によるものだけなのか、あるいは演奏スタイルの違いによるものなのか。
最後の左手のための「シャコンヌ」も、堂々とした素晴らしい演奏です。途中の弱音部の美しさときたら喩え様もなく落涙ものです。
これほど自然で、奥行きがあり、流麗でエレガントな、しかもピアノ曲としての比類ない美しさをもつシャコンヌを、私は聴いたことがない。
とにかく完成度の高いアルバム、若き才能に脱帽です。自分の下手な感想より、以下にリンクを張った青澤隆明さんのレビュウを演奏とともにご堪能下さい。
しばらくこの盤を聴き込んだ後に、カントロフの他の盤も聴いてみようと思います。
ブラームス:
- バラード集 Op.10(1854)(ニ短調/ニ長調/ロ短調/ロ長調)
- ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調 Op.5(1853)
- 左手のための『シャコンヌ』(1879)
(原曲 バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 第5曲)
(参考)
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