2001年12月30日日曜日

レッスンメモ

プロの演奏家のレッスンを受ける機会を得ることができ2時間ほど基礎をみていただいた。今日はそのレッスンの様子を書くこととする。ただし、これを読まれる方は以下の点を注意しなくてはならない。受けた指摘は、先生が私の吹き方や音を聴いての指摘であり、これがあなたにそのまま当てはまるわけでは決してないということだ。本テキストは私の防備録として書いているに過ぎない。

1.姿勢と楽器の持ち方

最初に注意されたことは、楽器の構え方。楽器に頭を近づけるような方法ではなく、姿勢を伸ばし胸も開きその上で楽器の方を唇に近づけるということ。

次には楽器と唇の角度。構えた楽器が下がりすぎていて、唇から出される息がねじれてエッジに当たってしまうので、楽器を水平にそして頭は少し右手の方に傾けるように指摘された。

指もガチガチに硬いとのこと。指は手を脱力して下げた場合、手のひらと指は軽く湾曲するがその形のままキーの上に置くように心がけたい。右手親指は人差し指の下あたりに伸ばして、左手親指は逆に曲がった状態としておきたい(伸ばすと手のひらの湾曲が損なわれる)とのこと。

上記は鏡をみながらではないとすぐにもとに戻ってしまう。

2.ソノリテの練習の仕方

まず何か吹いてみて、というので持参したケーラーの「Easy Exercises」の1番をまず通して吹いた。そこで先生は「だいたい分かりました」と言った後ケーラーを閉じ、ソノリテから始めることとなった。

さて、ソノリテである。トレバーの1巻にしても解説は何度も読んでいたのだが、音をつくるということがどういうことなのか、いままで全く分からないで吹いていたことに気付かされた。まず、ベースとなるH2音の作り方からはじめて、そこでクリアなH2が出たらその響きを崩さないように半音づつ降りてゆくということの意味。もしもある音がおかしくなったとしたら、それはアンブシュアの加減や歌口の開き方、そして唇とエッジの距離が本当に微妙に理想とは狂っているということなのだ。

ベースとなるH音の探し方は、まずD2の指でD2からD3に倍音で上がる。その後、正規のD3の指に替えCis3→C3→H2ともっていくというやり方だ。倍音を出してもにごらない音を出さなくてはならない。倍音は裏声を出すような感じで、最後のH2に向かってクレッシェンドしていくように心がける。

音はできるだけ、遠くに飛ばすようにイメージすることを、先生は繰り返す。また吹きながら固くならないように、歩けるくらいにリラックスすることを要求する。「音を遠くへ」という指摘は具体性を欠くという風に思う方もいるかもしれないが、これは非常に重要なイメージだ。以前、ある高名な方に教わったときも「音を遠くへ」ということを繰り返し繰り返し耳元で言いつづけた。そうすると不思議なことだが音に伸びと艶やかさが増してくるのだ。音に対するイメージというのは重要だと思う。

ソノリテの練習は、集中して自分の音に耳を澄まさなくては、その違いを理解して修正することは不可能である。そのことに今まで、トレバーの本を何度も読んでいても理解できないでいた。

3.歌口を空けるということ

「歌口はふさぎすぎないこと」これだけは、最初から注意していたつもりであったのに「ふさぎすぎている」と指摘された。

大きな勘違いがここでもあったのだ。歌口を「明ける=ふさがない」ことと「開く」ということは別のことなのだ。私の場合は逆に開きすぎていて、音が放散してしまっているという状態らしい。歌口はふさいでも1/3程度、そうするために歌口を当てる位置を随分と上方に修正された。その上で、歌口を外側に回しすぎないように注意された。

これは、おそらくエッジと唇の距離ということなのだろうと理解した。「歌口は空けその上で外側に開き過ぎないように、息のビームは下方に向けて」ということに注意して吹くようにすると良いようだということが分かってきた。

4.アンブシュアについて

理想的には唇の形=アンブシュアは全音域で変わらないらしい。その上で、例えばC4を出すような小さな穴で全ての音域を本来ならば吹きたいとのこと。例えば高木綾子がなぜあんなに音量がありながら息が続くのかといえば、それは小さな穴から効率よく息を出しているかららしい。

フォルテやピアノによって息のスピードは当然変わるが、それでも穴の形を変えないように唇の周りの筋肉?をコントロールできるようにならなくてはだめだとのこと。

この文章を書いていて、おそらく誤解を与える文章だと気になっている、読み飛ばしておいていただきたい。ひとつだけいえたことは、先生が全音域やら音の跳躍をやってみせてくれたのだが、確かに唇の形はほとんど変わることはなかった。日本音楽コンクールのビデオで高木綾子の演奏も見たが、彼女もまるで吹いていないかのごとき唇で全ての演奏を行っていた。

私の場合、高音では唇を緊張させ穴を小さく、低音に至るにつれ、ダバーと穴が大きくなっているらしく息を無駄にしているとのこと。歌口の穴以上の幅で息を出したところで全ては無駄な息である。むしろ、高音では力を抜き、低音に至るほど穴を小さくするようにと指摘された。横にも縦にも小さくである。

以上のことを十分に音が通るように、ブレスをしてもアンブシュアが崩れず常に同じ音が出せるように練習するのがソノリテの練習なのだと。これはとてつもなく時間のかかる練習であったのだ。

5.T&G EJ1

次にT&Gである。練習は遅くやること、音が出ないのに速く指だけが廻っても意味がないこと、先のソノリテの練習の連続であることを意識した上で、メトロノームを使って練習するようにと教えられた。体でリズムをとらず、メトロノームの音を頼りに正確に吹くこと。メトロノームは使い慣れていないと、うまくリズムに乗れないものだ。

八分音符108程度の速さから始めることとした。T&GはD1から始まっているが必ずC1から始めること、必ず正規の指使いで行うこと、音や指にムラができていないかよく聴きながら着実に練習することが重要なのだと繰り返された。自分の弱点のチェックなのだと。

最初は全てスラーで、滑らかな山を作るようなスラーで、メトロノームにきっちりと合わせて確実に吹くこと。もしもある音と音の間にムラがあるならば、いろいろなアーティキュレーションで練習することなどを実際に指導していただく。

低音のC1からはじめて高音のC4までフルートの通常音域をムラなく確実に吹くこと。やってみて分かったが、このスピードでも満足には吹けないのだ。特に高音域、G3より上となるとメタメタになり始める。Gis3については正規運指だと高すぎるのでできる限り替え指を使うとのこと、これも知らなかった。

低音から初めて吹いていくと、ある音からつぶれたようながさついた音になる。そのたびに歌口とアンブシュアをチェック、最良のH2の響きに立ち戻って再度スケールに戻る・・・こうして練習すると、あっという間に2時間くらい経ってしまうものだ。

6.T&Gのその他の練習

先生のT&Gも見せていただいた。昔のハードカバーの今の大きさの倍のサイズで、EJ1が見開き1ページで納められている。

先生の学生時代の教本にはイロイロな書き込みがある。「フルート演奏の基礎~練習のヒント」(小泉剛)にも書かれているが、T&Gは考え方次第では無限の練習方法があるとのこと。やたらと多くの教本に接せず、T&G一冊をじっくり取り組むことを薦められた。ただし、それには練習方法を最初にしっかりと教えてもらわなくてはできないとのこと。私はフルート初めてもう6年くらいになるが、誰一人としてそういうことは教えてくれなかった。

例えばT&GならばEJ1の他には、EJ3(B)、EJ6 アーティキュレーションは少なくとも1と8で、そしてEJ7をオクターブ上も含めて練習すると良いとのこと。小泉剛の練習のヒントにも述べられているが、EJ1に臨時記号を付け加えることで、すべての指使いが練習できるとのこと。

先生はその他にもモイーズの教本とかを見せてくれたが、楽譜の横にメトロノームの速度指定を順次書き加えたあとなどが、それこそすべの練習に残されている。「やはりこんなに練習しているんだ・・・・」と思わずつぶやいたら「そりゃそうだよ」とのこと。まったく「そりゃそうだよな(藁)」

7.そして分かったこと

最後にいわく、「これらは、すべて曲を吹くための基礎体力みたいなものなんだよ。エチュードをやるのもいいけれど、基礎体力がないと、できないフレーズが出てくるたびにひっかかってしまい、面白くないでしょう。指だけ動いても音が出なければ意味がないし、基本はまずいい音に尽きるんだよ。まずはここから練習した方がいいね。」

そうなのですよ、何故に今までレッスンを受けて、ガリボルディからケーラー、ベルビギエ、ドルーエなどと難しいエチュードに上がっていっても、振り返ると未だにガリボルディの131も満足に吹けないのかといえばひとえに、基礎体力がないことに尽きるのだ。

自分ではそれなりにやっているつもりだったのだが、「それなりに」であり、「徹底的に」ではなかったのだ。だからある線から一向に上達しないのだ。

本日教えてもらった練習をひととおりやるだけで、おそらく2時間はかかると思う。これを毎日というのは社会人には無理だが、「効率的な方法=短い時間で効果を上げる」というのはあるレベルに達した人がそれを維持するためにあるもので、基礎体力をつけようとする者にとっては、効率的な練習はないのだと知った。間違った練習を延々と続けても悪い癖を付けるだけだが、正しい合理的な練習であれば、それをひたすらやるしかないのだった。ただ、素人にはそれが合理的で正しい練習かどうかを判断できない。やはり定期的なチェックは必要だと痛感したのであった。

今日のレッスンは、今年最後にして、いままでで最大の収穫であったといえるかもしれない。


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