- パガニーニによる大練習曲S.141 Six Grandes Etudes de Paganini S141
- 葬送行進曲 Trauermarsh - Grande Marche funebre
- アレグレット・フオコーソ Grande Marche
- 騎兵隊行進曲 Grande Marche caracteristique
- ピアノ:マルク=アンドレ・アムラン
- 録音:2002年2月、
- ヘンリー・ウッド・ホールでのデジタル録音
- 英HYPERION CDA 67370(輸入版)
アムランといえば技巧派のピアニストとして有名だ。CD試聴記でもブゾーニのピアノ協奏曲のレビュを、驚きと感動を持って書いたことを思い出す。そんなアムランが、リストの超絶技巧練習曲を録音したというのであるから、少なからず興味を持っていた。
リストという作曲家が好きかと問われれば、否というか、好きと答えるほどには親しんでいないというのが正直な回答だ。中学時代にジョルジ・シラフが弾くハンガリア狂詩曲 第2番のLP聴いたときの衝撃は忘れられないが(それこそ擦り切れるほど聴いたものだ)、それ以降リストの作品に食指が伸びることはあまりない。
さて、今回のアルバムは疎遠なリストを私に近づけることができる一枚になったであろうか。
まずは、パガニーニによる第練習曲。リストがパガニーニの演奏を聴いて「ピアノのパガニーニになる」と決意したという逸話は有名だ。この練習曲はパガニーニの原曲以上に難しいと言われてきた難曲であるらしい。第3番「ラ・カンパネラ(鐘)」は有名でよく演奏されていると思うが、全曲を通して演奏されることは、最近までは少なかったようだ。
私はピアノを弾かないので、聴いていてもどこが難しいのか、真に理解し驚嘆することはできないのだが、それでも、恐ろしく複雑にして多層にわたるアルペジオやら音階がスピーディーに弾かれるのを聴いていると、ほとほと感心してしまう。
アムランはこれらの「超絶技巧」といわれる難曲を(今では多くの演奏家が演奏可能なのだろうが)いともたやすく、弾いているように聴こえる。一部の隙もない演奏からは、技術を落とさないための日課練習をしているような余裕さえ感じられるところがオソロシイ。
しかし、この演奏を聴いて感動するかと問われれると、首を傾げざるを得ない。原曲のパガニーニのカプリ-スをどうしても思い出してしまう。原曲以上に難しいというが、原曲に漲る、悪魔的ともいえるほどの魅力と、技術的な冴えのようなものが、薄められてしまっているように思えてならない。
パガニーニ大練習曲、シューベルトの行進曲/マルク=アンドレ・アムラン(pf)フランツ・リストの有名なエピソードに、1832年、パリでヴァイオリンの名手パガニーニの超人的技巧と悪魔的容貌に接した際、「ピアノにおけるパガニーニ」になることを決意したという話があります。その若きリストの思いがストレートにあらわれたのがこの「パガニーニ大練習曲」だと言われています。 リスト初期の成功作となったこの作品、6曲のうち5曲が「24のカプリース」をとことん技巧的にピアノ編曲したもので、有名な第3番「ラ・カンパネッラ」のみヴァイオリン協奏曲第2番から編まれています。 これまで、「リスト弾き」といわれる人でも、特に有名なこの「ラ・カンパネッラ」のみを弾くことが多かったのですが、昨今のフランツ・リスト・ルネッサンスと、超絶技巧ピアノ・ブームの盛り上がりにより、全6曲の本格的な演奏がなされる機会も着実に増えてきているようです。その先鞭を付けたのも実は、このhyperionレーベルだったのかもしれません。レスリー・ハワードによるリスト:ピアノ作品全集の第48巻(CDA 67193)で、全曲版を2ヴァージョン ―― 1838年版と1851年版 ―― とも録音して大評判となったのはかれこれ4年ほど前のこととなります。 空前絶後のテクニックで不滅の金字塔を打ち立ててきたアムランの、これが待望の最新作。アムランにとってCD一枚丸ごとリスト作品というのは、96年録音のライヴ盤「プレイズ・リスト」(CDA66874/国内仕様MCDA66874)以来となります。今回の録音は、今年2月にヘンリー・ウッド・ホールで入念にセッション・レコーディングされたものです。今考えればアムランは「パガニーニ・エチュード」全曲録音のための伏線も、実はしっかり張り巡らしていたのでした。2001年2月に録音された「万華鏡(カレイドスコープ)」(CDA67275/国内仕様MCDA67275)で、アムラン自作のエチュード第3番「パガニーニ=リスト:ラ・カンパネッラによる」を入れていたのです。このアムラン流・超絶技巧てんこ盛りの「ラ・カンパネッラ」は、今回のアルバムへとつらなる明らかな道しるべだったと言えるでしょう。コンポーザー=ピアニストにこだわり続けるアムランの評価は、ヨーロッパでもこのところますますうなぎり。前作のゴドフスキー:ピアノ・ソナタ ホ短調/パッサカリア(CDA67300/国内仕様MCDA67300)はhyperionの数あるニュー・リリースの中でも空前のセールスを記録。ヨーロッパの店頭では「飛ぶように売れ、あっという間に売り切れた」と伝わっています。持ち前の超絶技巧に加え、音楽的にも深みを増しつつある、アムランの躍進ぶりには目を見張るばかり。 パガニーニ=リスト=アムラン、という3人のコンポーザー=ヴィルトゥオーゾの時空を越えた邂逅は、聴く者にきっと最高のカタルシスを与えてくれることでしょう。
超絶技巧の作品を果敢に演奏し続けているアムランがリストの難曲を録音したCDが発売されたのを見つけさっそく入手して聴いてみることにしました。パガニーニによる超絶技巧練習曲はリストの作品の中でもポピュラーなものですが,シューベルトによる行進曲の録音は比較的珍しい録音に属するのではないでしょうか。 ここで聴かれるアムランの演奏は相変わらず見事で,最初の超絶技巧練習曲集では,目まぐるしいパッセージをものともせずに冷静なコントロールによって生み出される精妙な表情の変化には唖然とするばかりですし,表情の幅や力感も十二分に発揮されており,表現が無味乾燥になることがありません。 私自身,この演奏の複雑で困難なパッセージがハイスピードで正確に再現されているのを聴いているだけでも,メカニカルな快感と,スポーティな爽快感と,高度なものを成し遂げた達成感を感じ,自分が弾いているわけでもないのに大いなる満足感に浸ることができました。 ただそれでも,この演奏は精密な機械仕掛けのからくりを聴いているような気もしてしまうのも事実で,冷静かつ完璧なコントロールに耳を奪われながらも,聴き手に迫るパワーや迫力といったものは感じられないので,リストの超絶技巧作品を聴くにしてはクールに過ぎるのではないかとも思えます。 しかしそれは,これまで聴いてきたリストの演奏によって蓄積されてきた作品のイメージに過ぎず,そもそもリストはパガニーニの演奏を聴いて,自分は「ピアノのパガニーニ」になろうと思ったというのですから,パガニーニのようなクールビューティな演奏こそ作品の姿を伝えるのかもしれないなという気もしています。 続いて収録されているシューベルトによる3つの行進曲は,シューベルトのD819の6つの大行進曲とロンド,D859の葬送大行進曲,D886の2つの性格的な行進曲から再構成した作品で,原曲はいずれもピアノ連弾曲なのをピアノソロにアレンジしたという難曲です。 こちらは,オリジナルのシューベルトの作品そのままといった印象があるのですが,声部が増えたときには独りで弾いているとは思えないような対比が聴かれ,それをアムランが鮮やかに弾き分けているのは全く見事で,表現そのものというか,メッセージ性は淡泊といえるのですが,フォルテでの力感や,華やかなパッセージのブリリアントな響き,そして軽快なリズム感も聴き応え十分で,アムランの表現のパレットの様々な階調を堪能できるものでした。 こうして聴いてみると,いずれも難曲になればなるほど持ち味を発揮するアムランの超絶技巧が遺憾なく発揮された,鮮烈な演奏に唖然とするばかりでしたが,それが持てるテクニックのぎりぎりのところで演奏されているのではなく,余裕を持ったコントロールの範疇内でなしえていることに,アムランの技量の途方もなさを感じます。これは豪快なリストを聴きたい方にはお薦めできないかもしれませんが,技術の粋を尽くした1つの究極を思わせるリストの名演として強く推薦したいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿