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2003年3月2日日曜日

櫻井よしこ:大人たちの失敗~この国はどこへ行くのだろう?


櫻井よしこの文庫本新刊である。以前感想を書いた「日本の危機」と彼女の論調は同じであるが、あの本ほどは怒っていない。静かに語りかける口調ではあるが、そこには彼女のゆるぎない主張を読み取ることができる。

彼女は例えば憲法問題に関して言えば改憲派に属している。「軍隊のない国家など存在しません。防衛庁を防衛省に格上げし、自衛隊を軍隊として認めるのが自然」「"憲法違反"の自衛隊を、憲法を改正してきちんと合憲の存在として認めたい」(P.140)と主張する。

こういう意見を呼んで「タカ派だ、保守派だ」と決め付けることは余りにも幼稚すぎる。彼女の思想をして「どちらかというと産経より」という事にもどれほどの意味があろうか。彼女も言うように我々日本人は長い間、こと防衛と憲法問題に関しては詭弁とごまかしを重ね、さらには憲法問題に関してはアレルギーを覚えるような風潮を醸成してしまったのだと思う。真面目で大人な防衛議論が今までなされてこなかったのだとは私も思う。従って彼女の意見を読み、それが私の感覚と若干のズレがあったとしても、彼女の意見によって問題意識が喚起される。決して「何を言っているのだ、ハナシにならない」と撥ね付けることはできない。

教育問題についての視点も相変わらず厳しい。最近の子供や学生の教育やしつけの問題を憂いている。「お金や物は、人間の心を豊にしてくれる手段であるのに、いつの間にか、それ自体が目的になっていた」「十台の子どもたちの問題は実はその親の世代の問題でもあり(中略)つまり問題の解決には三世代、百年かかってしまう」(P.21)と書いている。お金やモノ以外に幸せの基準を求めると言うことは、今まで三世代かかって築いた価値観を転換するということだ。しかしと私も思う。これをしなければダメなのだと、根本的には何も変わらないのだと。「日本人には経済をもう一度隆盛にするのは何のためなのか、という問題意識が、言い換えるならば単なる経済現象を越えた大目的がないために、頑張ることができないでいる」(P.25)という主張はまさに私の考えにごく近いものである。

彼女は心底このままでは日本がダメになると主張する。しかし嘆くだけではなく、しっかりしろと励ましてくれる。「日本は自身を失う必要はないと思います」「私たちが心をしっかりさせることです。日本と言う国と社会を、歴史、文化などを含めてよく学んでゆくということです。その中から、未来に挑戦してゆく自信を救いあげていくことが前提条件です」(P.206)という主張は、学生ばかりではなく社会に出て日々の仕事や家事に謀殺されている私たちにこそ向けられる言葉かもしれない。

彼女のマスコミに対する批判も厳しい。「取材での経験を通じで、日本の大新聞がいろいろな面で偏りがあるという思いを深くしている](P.193)と書き「幅広くはなりますが、その分深く突っ込むことができにくくなる」(P.194)日本のマスコミを海外の言葉を借りて「ワン・インチ・でプス」の報道(P.194)と評する。それでも彼女は(当然ながら)「新聞は読むべき」(P.200)と主張する。我々は一面的な情報からでもその裏を読む知力が求められているのだ。

この本を読むと社会で中堅として働く人よりは、むしろこれからの社会を担う学生へと向けられたメッセージというものを痛切に感じる。これからを変えてゆくのは年寄りではなく、確かに若者達であるはずなのだ。

今の日本は一見幸福そうに見えても、実は非常に非人間的で住み辛い世の中だと思う。それを気づかせないように、あるいは気付かないフリをしながら過ごしているとしか思えないことさえある。1億人皆が中流で平等だったなんて単なる幻想でかなくなった。格差や歪みはあちこちで噴出している。しかも、誰もが何か間違っていると思っているのに改善できない、この行き所のない閉塞感をどうしたら打破できるというのか。私たち日本人も、どこに向かうべきなのか、肝心の大人たちが自信を喪失し羅針盤を持たずに大海をさ迷っているような雰囲気さえある。

私はもはや学生のように純粋でも若くもない。しかし彼女の本でカツを入れてもらうと、少なからず力が沸いてくる、知力が必要だと、そして勇気ある行動が必要だと思えてくる。

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