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2007年10月12日金曜日

モネ損傷事件 さらに続報


モネ損傷事件の続報を追っています。全く個人的な興味です、今後も同様のことを続けるつもりはありません。


さて、若者5名(4名?)が起訴される方向のようです。うち1名は空調会社社員で、美術館への進入方法が分かっていたようです。


事件は本当に予め意図したものではなかったようです。APによりますと、5人は深夜に美術館に忍び込み、警報が鳴り響き驚いて逃げるところを、一人が絵にパンチをくらわせたとのこと。犯行はビデオカメラに収められていました。



The intruders wandered around the museum's ground floor, where the Monet painting was hanging, until an alarm sounded. Before fleeing, one of them punched the painting, officials said.


警報が鳴るまでウロウロしてたっていうんですから、おおかた酔っ払ってウダ話でもしていたんでしょうね。名画のかかっているギャラリーを歩きながら!>なんてウラヤ★シイ!


彼らはフランス刑法でいうところの、"damaging on object of public usefulness"で起訴(preliminary charge)されるとのこと。


Under French law, preliminary charges mean that the investigating magistrates have determined there is strong evidence to suggest involvement in a crime. It gives the magistrates time to pursue their probe before they decide whether to send the suspects for trial or drop the case.


主犯格の男性の罪は3年の懲役と45,000ユーロ(64,000USドル)の罰金だそうで、前科もないようですから、本当に今は反省していることでしょう・・・(;_;)


��月に盗まれた絵は、それにしても、どこにあるのでしょうかねえ。

2007年10月10日水曜日

モネの損傷犯が捕まったようで・・・

モネの絵画損傷の続報です。容疑者5名が捕まったようですね。以外に早い解決のようです。



One of the five being held for questioning gave himself up on Monday and told police the names of his companions after taking fright at the intense media coverage of a break-in that was captured on a security camera.(ABC News)

18~19歳の未成年らしく、お祭り騒ぎの中で酔っ払ってやってしまった、ということのようです。悪ふざけが過ぎたというか、後先を考えられなかったということでしょうか。突発的行動にしては反響が大きすぎました。修復可能で致命的な傷でなかったのが何よりです。


Police sources say statements made so far suggest the intruders had been drunk and did not premeditate the attack on the painting.(ABC News)


美術品に限らず歴史的建造物、貴重な自然など、性悪説を前提として展示あるいは存在していません。しかし、深い考えない悪意により傷つけられているのは洋の東西を問いません。とはいっても、相次ぐ美術品盗難や損傷事件の報に接すると、美術館や博物館の脆弱性が気になるところではあります。防弾ガラス+警備員に阻まれて、2m以上近寄れないというのも鑑賞スタイルとしては最悪ですけど。


Several recent incidents have raised questions over the security of works of art in French museums.(AFP)


え?音楽のサイトなのに誰も興味ないですか? この絵は高校時代から好きな絵のひとつでしたからね・・・、やっぱり気になりますでしょうに。

2007年10月9日火曜日

モネの絵がまたしても憂き目!


またしても、モネの作品が憂き目に合いました。フランスは10月7日、芸術と文化の祭典「ホワイト・ナイト(Nuit Blanche)」が開催中。同時にラグビー・ワールドカップ準々決勝で、ニュージーランドのオールブラックスから全く期待していなかった勝利を飾ったことから街はお祭り騒ぎ。酔っ払った5名(four or five people, likely four boys and a girl)がオルセー美術館に押し入り、モネの「アルジャントゥイユの橋」(今年、国立新美術館で見たばかり!→clala)をこぶしで傷つけたというのです。傷は切り裂かれたように10cmほど。修復は可能とのことです。




Five apparently drunk people broke into the Musee d’Orsay early on Sunday morning and punched a 10cm (4inch) tear in Le Pont d'Argenteuil by the Impressionist painter.


フランスの文化・通信相は破壊行為に心を痛めると同時に罰則の強化を主張してます。



It would be good a thing to increase the sanctions for (people who vandalise) a church, a museum, a monument, because they are attacking our history.


It’s always a heartbreak when an art object that is our memory, our heritage, that we love and that we are proud of is victim of a purely criminal act.



フランスは8月の盗難事件(→clala)といい、美術品関連の事件が絶えないようです。窃盗の場合は、心無い窃盗犯による仕業であったにしても、最終的には美術品に(金銭的)価値を見出しての犯行。美術作品に限らず過去の遺産や芸術作品を破損させる行為は歴史や文化遺産に対する反逆行為です。どちらも憎むべき犯罪ですが、破壊行為は許しがたく。


今回の犯罪がバカ者による度を越した悪ふざけであれば一過性のものでしょう。しかし、それが現在を生きる者の不満の捌け口として成されているのであれば問題は大きい。自分たちよりも芸術作品の方が「大事にされている」と思う気持ちが、もし仮にあるとするならば、これらの反社会的行動の根は非常に深いと言わざるをえません。フランスは移民問題とか内政は日本とは異なります。犯人の若者が、どのような者たちであるのか、事件の背景についも、注目しておきたいところです。

2007年8月8日水曜日

またしても、名画盗難!!

弐代目・青い日記帳によりますと(→http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1099)、フランスのニースにあるジュール・シュレ美術館から、モネ、シスレー、ブリューゲル(父)の作品が白昼堂々盗まれたらしく。



Googleで海外の新聞をいくつか検索してみましたが(>英語、読めないけど)、経過は上のごとくで、まだその後の記事は出ていないようです。この美術館からモネやシスレーがこの美術館から盗まれたのはこれが初めてではないとか。


美術館の防犯について疑義を呈する論調もありますが、覆面ガンマンが「伏せろ」って言えば、フツー伏せちゃうよね(;_;)


ネット上では盗品4点のうちモネの絵の画像が多いようだけど、作品としては少しボーっとした印象。ブリューゲル(父)の絵は、対になった寓話のようですね。シスレーの画像を掲載している記事は少ないのですが、いかにもシスレーらしい明るい絵、素直に幸せになれますね。


takさんも引用されているように、Guardian(by Kim Willsher)によれば、


Investigators believe the paintings, described as of "inestimable value" by the museum, were almost certainly stolen by "special order" and destined for a private collection as they are far too well known to be sold on the open market.


なんだそうで。この"special order"とか"private collection"というのに、一般人は非常に興味をそそられますが、そんなミスターXなんて存在しないと言い張る人も居ます(→『ムンクを追え』)。


International Herald Tribune(AP)によると、モネは最も盗難にあっている画家であり、盗品データベースでは53がリストアップされているそうな。更に、盗難の規模はFBIの推定によれば、


the market for stolen art at US$6 billion (€4.7 billion) annually. The Art Loss Register has tallied up 170,000 pieces of stolen, missing and looted art and valuables.

なのですとか!! まあ、絵の価値なんて、なんだかわけの分からないものを相手にしての金額ですが、それにしてもイヤハヤ。


盗難の理由はなんであれ、あのムンクだって2年経って発見されたのですから、今回も見つかることを祈るばかりです。


最近、これもtakさんのところで紹介のあった柳原 慧の「いかさま師」を読んでいたもので・・・反応してしまいましたが、美術の裏社会は深く暗く興味深いですね。

2007年6月29日金曜日

展覧会:「MONET モネ大回顧展」


新国立美術館で7月2日まで開催されている《MONET 大回顧展》に行ってきました。木曜日と金曜日は20時まで開館していますので、会社を定時に退社し18時から警備員に追われて会場を後にする20時過ぎまで、たっぷりとモネを鑑賞することができました。

モネは私が美術部に在籍していた高校時代の、お手本の一人であり、憧れの画家でありました。例えば《かささぎ》(1868-69)の雪景色など惚れ惚れするほどで、この画集のこの絵のページを開いて、自ら雪景色の画題に取り組んだこともあるほどです。あまり有名ではない《ボルディゲラ》シリーズの圧倒的な力強さも色の使い方を含めて随分と画集を食い入るように見たものです。

ですから、このブログでも何度かモネについては言及しています(→展覧会:パリ/マルモッタン美術館展ほか)。今回、モネを回顧するという展覧会で、改めて初期の作品から最晩年の作品まで通して観ることで、モネの多作さと執念のような絵画にかける思いに、ほとほと打たれてしまいました。


今でこそモネは広く人口に膾炙し、日本人のみならず世界の人から愛される画家となりました。しかし、モネの活動時代は彼の画風はかなり前衛的なものであったはずです。彼の画布に刻まれた絵筆の跡は、画家として当然有する確たるデッサン力に裏打ちされた挑戦的なまでの勢いと思い切りの良さ、「光の変化」を追い求める執念が渦巻いているかのようです。

モネのデッサン力と画力は、マネ風の《コーディベール婦人》(1968)年を観ると一目瞭然です。もうひとつ私が注目したのはチケットにもなっている《日傘の女》(1886)をもとに、画商デュラン=リュエルの注文で描かれた同題材の鉛筆デッサンです。この簡素な、そして早描きのようなタッチのデッサンからは、油絵以上に風の動きや空気の香り、輝く光が伝わってくるのです。何かのCFでこの油絵を動かしている作品がありましたが、そんなチャチな細工など全く不要なほどに絵が動いていることに素直に驚きました。

これほど確かな技量と情念の持ち主が、晩年に白内障と診断され、だんだんものが見えなくなっていくと分かったときの焦燥と苦悶は一体どれほどであったか。彼の絵は、1980年代の油の乗り切った時期のものや、睡蓮の連作も好きですが、私はやはり画布に狂ったように絵の具がのたくりうっている1920年代の一連の絵に、またしても慄然としてしまうのです。モネがどのような思いで絵筆を取り、画布に定着させていたのか。絵にまじまじと近づいて、あたかも自分が描くかのように、その筆致を追うにつけ眩暈のような感覚さえ覚えてしまうのです。

良く観ると、《日本風太鼓橋》(1918-24)などの絵のいくつかに、モネのサインがないことに気付きます。これらの絵は、誰のためでもなく、自らを鎮めるために自らのために描いたものなのでしょうか。色は暗いというのとも違う。ヴァーミリオンやクリムソンレーキのような赤を多用した画面。筆致は荒々しく、モネの内面がそのまま表出したかのようでさえあります。あたかも作曲家が交響曲など描くかたわら、ひたすらに弦楽四重奏やピアノ曲を作曲するかのようなバランスの取り方。この時期に、彼は非常に静的な睡蓮シリーズを延々と描いているのです。

とにかく作品数は多いですから、モネ好きにはたまらない展覧会であることだけは確かです。会期もあとわずかです。興味のある方は行って損はしないと思います。

2006年6月27日火曜日

直島めぐり【その2】地中美術館


安藤忠雄氏の地中美術館は2004年7月18日にオープンしました。クロード・モネの絵画とともに、現代美術作家であるジェームズ・タレル氏、ウォルター・デ・マリア氏の作品が常設展示されています。



建物のほとんどが「地中」に埋設されていること、そして今や世界的なとも言える建築家である安藤氏の建物そのものが「作品」になっていることなどから、建築関係者を越えて話題となりました。

予め写真や雑誌などで、建物の概要は掴んでいたつもりですが、実際に安藤氏の建築を「体験」してみますと、彼の作品の中でも群を抜いて素晴らしいと感じました。今年オープンした表参道ヒルズが、全くいいところなしであり落胆させられたのとは、えらい違いです。

表参道ヒルズは、そのプロセスそのものが「作品」であったというのが私の評価ですが、直島プロジェクトはプロセスと結果を含め彼の代表作足りえていると思います。安藤氏の作品は、商業的な垢にまみれてしまうより、建築が屹然として存在を主張できるカタチの方が合っているのでしょうか。建物を地面に埋めてしまうということは、究極の環境配慮なのか、環境に対する欺瞞と冒涜なのかは議論が分かれると思いますが・・・
ここに収められたモネの作品も、静謐な空間と柔らかな自然光によって生来絵が持っていた美しさと力を取り戻しているかのようです。モネの聖地ともいえる新装されたパリのオランジェリー美術館がどういった展示空間になっているのかは分かりませんが、今まで接したモネの中では、最も絵画に適した環境であると感じました。

モネは大好きな画家ですから、このような空間で睡蓮シリーズに接することができたことには深い喜びと至福さえ感じます。自然光に照らされた絵画は通俗名画的な俗悪性を一切脱ぎ去り、霊的な雰囲気さえ漂わせていました。

ここでの安藤氏の建築は非常に控えめで、作品の力を引き立てることに成功しているようです。安藤氏には珍しく、コンクリートには塗装を施し、室内の入隅部は曲線を用いています。床に敷きつめられた70万個にも及ぶ2cm角の大理石も静謐な空間を作ることに一役かっています。

ジェームズ・タレル(米国:1943年生まれ)の展示スペースのひとつである「オープン・スカイ」は、鋭利に切り取られた空と、そこから降り注ぐ光の変化を楽しむ空間芸術です(左写真)。これには全く驚かされました。ウォルター・デ・マリアの展示スペースも素晴らしい。(ジェームズ・タレルについてはエントリを改めます)



しかし何よりも一番驚いたのは、やはり安藤氏の建築そのものでした。特に三角コートを結ぶ回廊の壁を切り取る開口幅35cmのスリット(左、下写真)は驚きでしかありません。建築の持つ有無を言わさぬ説得力という点において圧倒的です。



印象派のモネも、展示されているのが晩年の睡蓮シリーズですから、もはや抽象絵画、光と色彩の洪水と称しても良いような作品。建築家の安藤氏と、モネや光の芸術家であるタレル氏などの現代美術が、違和感なく融合しているのも、ともにギリギリまでの純粋性を志向しているという点で共感しあうものがあるのでしょうか。



ちなみに、掲載した写真や図面は「あちこち」から無断転載したものです。

2006年6月26日月曜日

直島めぐり【その1】 ベネッセハウス


香川県の直島に今年の5月オープンしたばかりのベネッセ・ハウス「パーク」に宿泊。安藤忠雄氏のコンテンポラリー・アート・ミュージアムと、2004年に出来た地中美術館、それと家プロジェクトなどを駆け足で観てまわってきました。

下の写真はホテルのバルコニーからの風景、なんともリッチです。部屋からは瀬戸内海が一望でき、山からは鶯の鳴声が朝の5時くらいから聴こえてきます。



宿泊施設も安藤氏の設計ですから、エントランスロビーからして、こんなカンジです。最近はコンクリートに長大な横スリットというのが、彼のお気に入りのようです。



レストランに向かう廊下も、こんなふうにコンクリートで出来ています。ここでは縦のスリットが綺麗ですね。



レストランのウッドデッキの目の前は砂浜。長閑な瀬戸内海が望めます。天気が良いと四国まで点在する島々が見えるのでしょうね。瀬戸内海は交通の要所らしく、タンカーやらフェリーがひっきりなしに往来しています。

ホテルは「アート・ミュージアム」というくらいですから庭には様々なアート作品が点在しています。



ほんとうに駆け足ではありましたが、なかなかにJCB GOLD的な旅でありました。詳細は続きます。



直島めぐり1 ベネッセハウス

直島めぐり2 地中美術館

直島めぐり3 ジェームズ・タレル











2004年3月15日月曜日

展覧会:モネ、ルノワールと印象派展

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「モネ、ルノワール印象派展」を観てきました。モネが14点、ルノワールが33点、その他印象派のシスレー、ピサロ、スーラー、シャニックをはじめ、エドモン・クロス、ロートレック、ボナール、ヴァイヤールまでを含めた展覧会です。モネとルノワールをこれほど大量に観る事ができたのは初めてで、非常に満足しました。

チケットにある絵はルノワールの《青い服の子供》(1889年)です。これは往年の大女優グレタ・ガルボが愛憎していた作品とのことで、いかにもルノワールらしさにあふれた名品でした。私はルノワールの豊満な女性をモデルにした作風やテーマはあまりル好きではないのですが、それでも彼の愛情にあふれた数々の優しい絵は独特の色彩を放っておりました。


左の作品は《肌着を直す若い娘》(部分)(1905年)ですが、何ともいえぬ肌の輝きが至福の絵画となっています。ちょっと見方を変えると、ティーン向けのグラビア雑誌に載りそうなポーズだなとも思いましたが(失敬)

モネは、「パリ・マルモッタン美術館展」の感想でも書いたとおり私の好きな画家の一人です。この展覧会でも、モネの作品を堪能するおとができました。彼の作品は自然の風景を描いたものがほとんどですが、本当にキャンバスが光を放っているのです、まったく驚くばかりです。展覧会の後、絵葉書や画集を手にとって、彼の絵の光の十分の一も印刷技術では再現できていないのだな、と改めて思いました。

この展覧会で気の利いているのは、例えばルノワールとモネが同じ題材を描いた作品(キャンバスを並べて描いていたのだとか)ですとか、ピサロやシスレーの同じモチーフを描いた連作を並べたりとか、印象派の特徴をそれぞれの画風の中で比較して展示しているところです。


上の絵は左がルノワール、右がモネの作品でアルジャントゥイユの鉄橋を描いたものです(1873年)。ルノワールの風景はそんなに多いわけでありませんが、両者の画風の違いが如実に出ており興味深い作品でした。

モネの作品はおなじみの睡蓮も3点ほど展示されておりましたが、初期の頃の作品から晩年の作品まで、またヴィエネチアでの作品なども含まれており、モネの変遷を知る上では格好の展示でした。「パリ・マルモッタン美術館展」のような最晩年の抽象的な絵はありませんでしたので、モネのファンであれば、二つの展覧会に足を運ぶ必要があるかもしれません。

シスレーやピサロの絵もよかったのですが、印象派の絵画を観ていて、展覧会に訪れる人は皆口々に楽しげに絵を見て語っています。ある意味で、絵画がもっとも幸福な時代であった頃の作品であるのかと思ったのでした。今更西洋名画をありがたがって鑑賞するというのも、現代においていかがかと思う方もいるかもしれませんが、至福の絵画たちに接することは決してムダではないと思います。

2004年2月9日月曜日

展覧会:パリ/マルモッタン美術館展


東京都美術館へマルモッタン美術館展を観て来ました。本展覧会では印象派のクロード・モネと、日本ではあまり知られていない画家であるベルト・モリゾの作品を一挙に見ることができました。

印象派のクロード・モネは非常に有名ですし、高校時代には彼の絵に心酔して画集を数種類そろえるほどでしたが現物をこれほどたくさん観るのは今回が初めてでした。

モネの絵は絵葉書は勿論、お皿になったりテーブルクロスになったり、本当にあちこちで溢れていますし、画風の分かりやすさから日本では大人気のことはご存知の通りです。今回モネの実物に接して感じたことは、彼の風景画は誰もが持っている「記憶の風景」を呼び起こす働きをするのではないかということです。タッチは風のように荒く、それでいて一瞬の移ろいのはかなさを秘めた風景を彼は描き出します。それが遠い昔の夏の風景だったり、懐かしくも楽しかった水辺での思い出だったり、人によって想起される記憶はそれぞれだと思いますが、彼の絵からは風景以上の情景に心乱されてしまいます。単なる風景画以上のものをそこから感じてしまうのです。

モネは晩年に白内障を患いました。この時期の彼の絵は具象から抽象へと向かったと、よく解説されますが、今回晩年の彼の幾枚かの作品に接し、そういうものではないのではないかと感じました。

例えばジベルニーの庭で書かれた睡蓮や太鼓橋などは色の中に形を崩し溶解してゆきますが、絵のタッチを見ると、色は互いに塗り重ねられていても濁ってはいません。下の色が十分に乾いた後に、荒々しいタッチで再び筆を重ねていることがはっきり分かります。ここには何か計算づくの怨念のようなものさえ感じます。そういえば色彩も赤系統を多用するようになり、さながら情念の炎が燃え上がっているかのようです。

形象が崩れた後に立ち現れる記憶としての風景は、晩年の絵においても顕著で、近くでは絵の具の塗り重ねとしか見えなかったものが、離れて目を細めて眺めれば、そこには紛れもない光そのものがキャンバスに定着されていることに気づかされます。彼は抽象に向かったのではなく、光そのものを彼の全精力を費やして固定したのだと思うのでした。彼には抽象とか具象とかいう概念はなかったのだと思います。

ベルト・モリゾについては事前の知識が全くありませんでした。モリゾは女性ですが、繊細でやさしい色彩を使う絵でした。ずっとそばにおいておきたくなるような絵です。ルノワールやシスレーなどの絵も1枚か2枚ありましたが、これはこれで彼らの画風を再認識させるものでした。それと展覧会の最初の一枚にあった、コローの絵(画集を買いませんでしたので名前は覚えていません)。この絵は素晴らしかった。いかにもコロー風の絵なのですが、画面の両側には黒々と覆いかぶさるような樹木が、そのむこうに広々とした湖と対岸が見えるという風景ですが、この湿度感を伴った空気ときたら、私はおもわずその小さな絵を見て吐息をもらしてしまいました。