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2004年4月7日水曜日

【本棚】田中宇:イラクとパレスチナ アメリカの戦略


以前、「アメリカ以降」(2004年2月20日 第1版)、「イラク」(2003年3月20日 第1版)と田中氏の本を紹介しました。いずれもアメリカのイラク侵攻以前に書かれた本でしたが、本書は2003年1月20日 第1版発行ですから、これらの本の中では一番古いものになります。

私がどうして中東問題とか、国際関係に少なからず興味があるのかといえば、アメリカに反旗を翻したいわけでも、イラク国民を憂えているわけでもありません。強いて言うならば、今まであまりにも国際関係の常識に無知であったこと、知り始めると非常にスリリングであること、ひいては、将来の日本の方向性についての知見を与えてくれることなどが理由でしょうか。

本書では、アメリカをはじめとしてイギリスなどの列強諸国が、中東に対してどのような世界戦略を描き統治してきたかの概略を説明してゆくことで、現代にまで続く中東問題の根本原因に言及しています。中東に少し詳しい方ならば、ほとんどが常識問題であるかもしれません。

田中氏は、イギリスやアメリカの中東戦略について「分割統治」と「均衡戦略」という観点から説明しています。これは、一国だけ(欧米に敵対するような)強大な国を作るのではなく、互いのパワーバランスにより消耗させあい、ひいいては西欧中心の世界を安定させようとさせる戦略のことです。

イスラエルの存在やサダム・フセイン政権を今回のイラク侵攻まで温存させたのも「均衡戦略」から説明しています。

西欧の為政者が本当にこのような壮大なる世界戦略を描いているのだとしたら、日本の外交などは子供だましもいいところですし、北朝鮮問題を初めとして、日本はあたかもアメリカの手の上で遊ぶ孫悟空のような存在だと比喩されても、否定することはできない気がします。

田中氏が中東問題に拘る理由については、エピローグに述べられいます。

私がアメリカの戦略の裏側を読み解こうとし続けるのは、アメリカが今後もずっと超大国であるかどうか、疑問があるからだ。

また、アメリカが911テロを利用して軍国主義に走った理由については、

アメリカがもはや経済的に世界を支配できず、経済が弱体化した結果、軍事で世界を支配しなければならなくなっているから

と説明しています。これは『アメリカ以降』で田中氏が展開することになる考えです。今後アメリカが衰退してゆくとしたら、日本の盲目的な対米追従は危険であり、それを回避させるためにも『アメリカに対する十分な分析が必要』であるとし、

アメリカの世界戦略の本質が最もよく分かるのは、中東情勢であると私には思われる

と書いています(P.260~261)。田中氏の書くことを100%鵜呑みにしたり、盲信するつもりはありませんが、田中氏の視点はかなりニュートラルであるため多くの本質を突いているのではないかと私には思えています。

2004年3月30日火曜日

【本棚】田中宇:「イラク」


田中宇の国際ニュース解説で「イラク日記」として今年はじめにサイトに掲載された記事が本になりました。

氏がイラクで見聞きしたことを通して、開戦直前のイラクの状況と、そしてアメリカの対イラク戦略というものが透けて見えてきます。

田中宇氏が2003年1月6日から19日までイラクを訪問したときのルポが中心となっています。本が書かれたのはアメリカのイラク侵攻の直前の時期で、氏自ら語っているように今となっては情報としては「過去の話」であると言えるかもしれません。また、氏の分析力を以ってしても3月1日の段階では「開戦の可能性は50%。どちらともいえない状態」とし、イラクのアメリカ侵攻は避けられるのではないかと思っていたようです。

結果はアメリカは国連決議を無視しほぼ単独でイラク戦争を始めました。田中氏の意図するところは、ジャーナリストとしての皮膚感覚を得るため、つまりは開戦直前のイラクが実際はどのような状態なのか、欧米の(そしてそれを垂れ流すだけの日本の)マスコミが伝えない状況とはどういうものなのかを、実際に確かめるためです。

その意味から、この本は私には興味深く読むことができました。開戦直前のイラクが、戦時に備えるという緊迫した状況ではなく、日常が続いていたこと、イラクという国は実は中東の中で非常に豊かな国であり、潜在的な発展の可能性を秘めていること、スンニ派、シーア派、クルド人などと分けて説明されることの多いイラク人が、個人的には宗派に関係なく親密であること、「戦争」となるのはひとえに「政府」が原因であることなどなど、色々と教えさせられる内容でした。

特にイラク人が勤勉で真面目であること、そして細やかな気配りのできる人であること、という説明は私には意外な思いで読みました。それほどまでに、アラブ人(と一くくりにできないこともわかりましたが)に対する情報の不足や先入観に満ちた情報に振り回されているのだなと。

田中氏はイラクで見聞きしたことを通して、アメリカの中東支配に関するアメリカ中枢部の思惑の裏側について独特の視点で解説をしてゆきます。アメリカのイラク侵攻をアラブの油田の権利と結びつけて説明する論もありますが、これも田中氏は「理論が中途半端」であると説明します。イラクの勤勉な素質と豊富な石油収入が結びついてイラクが経済大国になること、そして他のアラブ諸国の牽引役となる可能性のあること、これこそがアメリカがイラクを攻撃した最大の理由ではないか、と田中氏は示唆します。

アメリカは「大量破壊兵器の温存」を理由に攻め込みました。しかし、氏の本を読んでいると長年の経済制裁を受け、物資が不足していた国で、いくら裏貿易があったとしても大量破壊兵器を作る能力などあったのかと疑わざるを得ません。

田中氏が劣化ウラン弾の影響と思われる白血病や癌に侵されている子供の多い「バスラ小児科産婦人科病院」を訪れた際の担当医の言葉は痛烈です。

「アメリカは、劣化ウラン弾をばらまいて子供たちを病気にしただけでなく、薬の輸入を禁じて治療をさせないようにして、無実の子供たちを殺している。」

他民族国家であるイラク(自衛隊のイラク派遣でも話題になったように、更には様々な部族に分かれている)において、良くも悪くも独裁者としてのサダム・フセインが国家のタガとなってまとめていたことだけは確かです。民主政治VS独裁政治というくくりも、西欧社会の概念でしかないのではないかと考えさせられました。

「アメリカの(為政者に都合の良い)民主主義」、「アメリカの(国益だけのための世界の)保安官業務」、そのためならば一国の運命を弄ぶこともいとわない国。タカ派と中道派が世界戦略において覇権を争いながら世界をも動かしている国。日本はもっと情報と思考力においてタフさと深さが不可欠であると思わされる本でした。

【本棚】田中宇:アメリカ以降


田中宇(さかい)氏はインターネットで国際ニュース記事を配信している方で、時々サイトをチェックして拙い国際関係に関する知識を修正しているのですが、この本はまさにこの頃私が考えていたこと、すなわち「アメリカ以降~取り残される日本」に対する示唆を与えてくれるものでした。

本日29日のテレビ朝日の「たけしのTVタックル」でも安保を離れて日本が成立するか否かでムチャクチャな激論が闘わされていました。安保ありき安保の是非ということではなく、安保の相手であるアメリカについて「よーく考えよう」という内容になっています。

田中宇(さかい)氏はインターネットで国際ニュース記事を配信している方で、時々サイトをチェックして拙い国際関係に関する知識を修正しているのですが、この本はまさにこの頃私が考えていたこと、すなわち「アメリカ以降~取り残される日本」に対する示唆を与えてくれるものでした。

本の帯には本文から引用した以下の文が掲示されています。

われわれはアメリカが弱体化し、自己崩壊していった場合の「その後の世界」を考えてみる必要性が出てきている。日本人のほとんどは「アメリカが没落した後の世界」について、想像もしたことがない。アメリカが衰退する可能性が少しずつ増しているのに、アメリカが衰退するはずがないという前提で日本の将来を考えているのは、非常に危険なことである。

田中氏はアメリカ衰退の兆候を幾つかかの事例で説明しています。例えばアメリカ産業の象徴であった航空機産業や自動車産業の衰退、世界のドル離れ、そしてブッシュ大統領のアメリカにとってプラスとはいえない経済政策などなど。

私は氏のサイトで「ネオコン」という存在について知識を深めましたが、氏自身も「ネオコン」に対する考え方を模索しながら修正していることも、この本を読むと良く分かります。日本のマスコミは「ネオコン」という言葉さえも一面的にしか報道していませんが、そこに氏とのスタンスの違いがあると思うのです。逆にニュースや週刊誌での国際解説などは、田中氏のサイトや著作に接していると多くは既知のことでしかなくなります。

そういう田中氏なのですが、この本では大胆な仮説を打っています。それはアメリカ経済が衰退してゆく政策を「故意に失策をやっている可能性がある」としているのです。(P.25) そんな馬鹿なと思うのですが、田中氏はそれをタカ派と中道派の戦略の違いから分析し、最近のイラク戦争の現状も踏まえながら説明してゆきます。

また911テロが生じたとき、ハンチントン教授の「文明の衝突」が現実になったとマスコミは解説していましたが、これについて田中氏は、

��・11はアメリカかわの政治的な理由で誘発された可能性があることを考えると、ハンチントンの論文は「予測」ではなく「企画書」だったのだと感じられる。(P.175)

と書いています。田中氏は別著で911テロをホワイトハウスはわざと防がなかったフシがあることを早くから掴んでいて、アメリカの陰謀説に近い疑いを提示していました。それの真偽は私には判断がつきませんが、アメリカはタカ派と中道派がそれぞれ、壮大な世界戦略を持ちながら国家運営を行っているのであることは気付かされます。

田中氏はアメリカの(世界で一番良い社会システムだと教育されてきた)民主主義も既に歪められていることを指摘しています。「すでにアメリカは、かなりの「警察国家になっている」」(P.120)という指摘には驚かされます。

アメリカの民主主義や人権など、為政者の一方的な都合で歪められていることは、たとえば911テロの容疑者をキューバのグアンタナモ空軍基地に収容していることをとっても明らかであるかもしれません。(本書P.19や「世界2004年4月号」岩波書店p.203 グアンタナモの「暗闇」の中で~蹂躙される人権:ル・モンド・ディプロマティックより などを参照)

翻って日本の現状を考えると、アメリカ批判もなく思考停止に近い「対米追従」です。日本の指導者だってそんなに馬鹿であるはずがありませんから、もしかすると、これこそ思考停止のフリをした最も狡猾な小判鮫的外交戦略であるのかもしれません。そうであったとしても、くっついている魚が死に体になりつつあるのであれば、新たな方向性を模索しなくては資源のない日本の未来は暗いと思いますし、くっついている相手についても判断可能な情報が欲しいと思うのです。

いずれにしても、馬立誠氏の「日本はもう中国に謝罪しなくていい」でも指摘していましたが、日本が急にアメリカに反旗を翻すのは得策ではないことは確かです。それだからこそ日本はアジアを含め新たな外交戦略が必要な時期に来ており、経済・安保を含め日本の将来を真剣に問うべき時に来ていることだけは確かなのではないかと思うのでした。

2003年4月13日日曜日

田中宇のジャーナリズム





田中宇(さかい)と言う名前を聞いたことがあるだろうか。「田中宇の国際ニュース解説」というサイトを運営し、自らのサイトそしてメールマガジンで国際社会のニュースの裏側を解説してくれている。サイトは何を隠そう私も欠かさず読んでおり、多くのことを教えてもらっている。この本を見た家内は「TVで良く名前を見るよ」とも言っていた。かなりユーメー人のようである。 
右の書では「ネットジャーナリズムを確立した男」と紹介されている。田中氏は1961年生まれ。大学を卒業後、繊維メーカー勤務を経て共同通信社に入社。その後、マイクロソフト社に入社し日本発のコラムサイト「MSNジャーナル」を立ち上げる。1999年独立しジャーナリストとして現在の活動を続ける、という経歴だ。

彼のコラムを何気なく読むが、その分析力と情報収集力の多岐に渡る点はいつも感嘆する。インタビューによれば、彼はインターネットを駆使し毎日30ほどの記事にざっと目を通し記事を書いているという。ひとつの記事には平均30時間ほどかかるのだとか。それだもの記事がおもしろいわけだ。
右に紹介した本は、これらのネットで公開されたものの中から文庫本として編集したものだ。最新の彼の記事はネットで読めるので、わざわざこの本を買わなくてもよいかもしれない。また、この2冊を読んだからとて国際情勢の裏が急に見えてくるわけでも、事情通になれるわけでもない。
それでもひとつのきっかけにはなる。
私は国際情勢の面白さを、彼のサイトで知ったような気がする。例えば田中氏はアメリカが受けた911テロも、真珠湾同様に仕組まれたテロであるとする本も上梓している。そんなバカなと思うかもしれないが、その手の意見は欧米の新聞紙面では多く見かけるらしい。朝日新聞やNHKは間違ってもそういう報道はしないだろう。
イラク戦争の理由を考える上での、石油利権問題やネオコンの存在は、テレビ(それもサンデープロジェクトあたり)が問題にするはるか以前から彼はネットで指摘していた。彼の記事を読んでいたので「何をいまさら」と思ったものだ。
私たちが新聞やTVから受ける情報は、一面的でかつ一方的だ。その裏で何が起こっているのかは、嗅覚を働かせなくては見えてこない。
バグダット陥落時に市民がフセイン銅像を引き倒したのも、まわりで騒いでいた市民も米軍の指しがねであるとの週刊誌報道もあったりした。何が真実なのかは永久にわからない。しかし、その報道が与える効果、影響は何か、何のためにこの報道がその時期に流されるのか、そういうことを少しでも感じることは、流されずに生きて行く上で重要なことだと思う。
田中氏のジャーナリズムは、そういう表に見えないものに重要なメッセージが込められていることを気づかせてくれた点において、極めて秀逸であると思う。