2006年9月15日金曜日

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番K.331《トルコ行進曲》/ファジル・サイ





    モーツァルト
  1. ピアノ・ソナタ第13番変ロ長調K.333
  2. キラキラ星変奏曲(「ああ、ママに言うわ」による12の変奏曲ハ長調K.265)
  3. ピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330
  4. ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331《トルコ行進曲》
  • ファジル・サイ(p)
  • 1997年9月、パリ
  • WPCS-11742

《トルコ行進曲》付きとして紹介されることの多い曲ですが、有名な第三楽章だけではなく、最初からきわめてモーツァルト的な雰囲気を楽しめる曲です。

例えば第一楽章。これは主題と六つの変奏曲の形をとっています。10分程度の楽章ですが、年頃を迎えた少女の寸劇を観ているかのような印象さえ感じてしまいます、例えばこんな具合に。

主題は、母への優しい想い、あるいは秘めたる気持ちを静かに暖めているかのような、あるいは恋人の写真をうっとり眺めているような、ほっくりとした幸福感を感じます。第一変奏は、うれしい知らせがあったのかのように快活になり、ウキウキした心の昂ぶりを表現します。第ニ変奏は更にスキップするがごとくに、あるいはクローゼットから色とりどりの服を出してはしまっているかのよう、気持ちはどんどん弾みます。第三変奏は一転してイ短調に変わり、心の乱れ、不安と翳りが表現されます。夢見る雰囲気は薄れ激しさが増し、いらだたしさに爪を噛み涙を流します。第四変奏は再び冒頭に現れた主題が、至福感と抒情と華美さを増して展開します。続く第五変奏は、何かを告白するかのような恥じらいとためらい、そして可憐さを感じさせる曲調に変わります。声も出ないほどここの変奏は美しすぎます(サイが唄うのも今回ばかりは許す)。そして最後の第六変奏はアレグロ、快活にそして力強く喜びが爆発し華麗なステップを舞います。

第二楽章も、サイのピアニズムの瑞々しさ、ドキドキする躍動感、夢見るような陶酔感を充分に味わえます。何かどこかが新しく、心を刺激する。決して奇を衒ってはいない。

終楽章の《トルコ行進曲》は圧巻でしょうか。トルコ趣味の曲をトルコ人であるサイが、抜群のテクニックで疾走します。アクセントの強さと鋭さ、弱音部の美しさ、その対比の見事さ。陶然とする想いにアタマの芯が痺れながら最後のコーダに突入。そ、そうくるかっ! このコーダの表現は、ベートーベンの《熱情》でも聴かれたテクニックに近い。独特のタメとその直後の加速が恐ろしいほどに曲を立ち上げる。続けざまに5度も聴いているが、まさに麻薬、何たる表現。


親しみやすく有名な曲ですが、私はある意味で極めて高度な曲だと思います。サイのピアノは色彩豊かで、美しくも力強く、目の前に無数の花びらが舞っているかのよう。