2004年2月4日水曜日

カルロス・クライバー/ベートーベン交響曲第6番「田園」

  • カルロス・クライバー(指)バイエルン国立歌劇場管弦楽団
  • 独ORFEO C 600 031B
  • 1983年11月7日

昨年話題となったカルロス・クライバーの「田園」を聴きました。

ネットでの感想を読む限り、賛否両論でしたが、演奏、録音回数ともに少ないC・クライバーですから期待が過剰になっていたふうにも伺えます。私にとっては、これはこれでとても素晴らしい「田園」となりました。

ベートーベンの交響曲では4番、5番、7番などがいずれも名演の誉れ高いのですが、クライバーは生涯の中で「田園」を振ったのは、ここに納められている1983年11月7日の演奏が唯一なのです。クライバー・ファンならずとも注目をしてしまいます。

そもそも「田園」という曲は、ベートーベンの交響曲の中でも損な役回りをしているように思えます。中学の音楽の時間に名曲鑑賞という名の下で聴かされたであろう「名曲」なのですが、ベートーベンの他の曲のように、「よし、今日はひとつ天気も好いし公園に行く変わりに《田園》でも聴くか」とは絶対にならないのです。天気が良かったら家で音楽など聴くなよという突っ込みはおいておくにしても、「田園」をこの前いつ聴いたかというと思い出すのが難しいほどです。

私にとってはそんな曲なのですが、クライバーの演奏を聴いてみて、果たして「田園」という曲を見直す思いでした。牧歌的なイメージとは裏腹に、他の曲と同様のベートーベン的苦悩と歓喜の交替を聴くことができます。かと言って力瘤を溜めまくったベートーベンでは全くなく、クライバーの4番や7番と同様に、疾走するかのようなスピード感、第4楽章に見られるような畳掛けるような激しさ(本当に凄まじいの一語に尽きます)、そして圧倒的な平穏が訪れる第5楽章など、起伏の激しく切れの良い音楽を聴くことができます。

「田園」の定盤は知りませんが、今回この盤を聴くに当たって、東京に持ってきていたフルトヴェングラーとベルリン・フィルによる1947年5月25日のライブと比べてみました。比べることが間違っていると思えるほどに、フルトヴェングラーの演奏は立派であり感動的です。テンポもしっかりしていて重厚で激しいベートーベンを聴かせてくれます。

さて再度クライバーの演奏に立ち戻ってみると、やはりそのテンポの速さは圧倒的です、異常とも言えるかもしれません。83年当時は誰も振らなかったであろう程の速さ(あるいはベートーベンが楽譜で意図した速さ?)で駆け抜けます。きっとアファナシエフならば「君の演奏は速すぎる」とまたしても言うでしょう。それでもそこから立ち上ってくる音楽は、紛れもなくベートーベンの音楽以外の何ものでもなく、音質の多少の悪さなどを差し引いても、真に感動的な音楽に仕上がっていると私には思えます。

演奏の後には3分50秒もの拍手が録音されています。演奏終了後、すぐには拍手が起こらず、数秒遅れてまばらな拍手が、そして割れるような熱狂的な拍手へと変わっていきます。CD解説はLillian Kleiber、解説を引用して私の感想を終えることいたしましょう。

applause was slow in comming;[...]. A few concertgoers began hesitantly to applaud,but the rest of the audience continued to sit there as though under a spell,Only when Carlos Kleiber brought the orechestra to their feet a few moments later did jubilant applause break loose.
拍手を聞くだけで鳥肌が立つ思いです。ただ、ネットで読む限りでは賛否のうち否に傾いているように思えました。