演奏:キーロフ歌劇場管弦楽団
録音:Festspielhaus, Baden-Baden, Germany, 8/1989
PHILIPS 462 114-2(輸入盤)
さて、このCDは『くるみ割人形』全曲(81分)がなんと1枚におさめられている。チャイコフスキーやゲルギエフファンならずとも嬉しい構成である。それにしても、どこを切っても有名で耳馴染みのある曲を通しで聴くのは、もしかしたら始めてかもしれないなあと、聴きながらにして思った。
ゲルギエフはバレエ音楽であるこの曲を、どう料理しているか。さすがにこの曲は「戦争もの」ではない。だから、彼お得意のマチョさで、ゴリゴリ押しまくっているというような演奏ではない。それでも、非常にメリハリとダイナミックさに富んだヴィヴィッドな演奏になっていると思う。
彼の音楽の場合『シェヘラザード』でも『アレクサンドル・ネフスキー』でもそうであったが、激しい部分と弦を中心とした歌の部分の表現の対比には、いつも驚かされるのだが、この演奏でもそれを存分に味わうことができる。シンバルは高らかに鳴り、ティンパニは地響きのように叩かれる、そこに天から差し込むがごときハープの音色・・・ああ、これって『くるみ割り人形』なの・・って(^^)。
この演奏から聴き取れるのは、まさに生き生きとした躍動感だ。本来バレエ音楽であるためか、体の底から沸いてくるようなリズムは、時に野蛮なまでの野生を目覚めさせるかのよう。一方で彼の音楽は官能的でもあるのだと思う。本能に近い部分に作用してしまうので、ある種の音楽ファンには「効く」のだろう。リズムのぶれも粗さも、そういう種のファンにはどうでもよくなる。このような点を、あざとらしいとして疎んじる人もいるかもしれない。
それにしてもゲルギエフの統率するキーロフの演奏ときたら。本当によく彼に反応していると思う。これを聴くと、最近発売された彼の演奏のエッセンスが全てぎっしり詰まっているように聴こえる。コントラバスのかすれるような低音の響きもそのままだ。ああ、ゲルギエフとロシアの息吹が流れ込んでくる(^^)
「Trepak」を聴くと、札幌公演のことが思い出される。本当は、クラクCDなんて聴いている場合ぢゃあないですがね。