これは2002年6月録音のもので、ピアノソナタ第22番、第23番「熱情」、第24番「テレーゼ」そして第27番が収められている。更には期間限定のボーナスCDとして、2002年6月4日にウィーンのムジークフェラインザールで行われた「熱情」と「テレーゼ」ライブ録音が付いているのが嬉しい。つまりポリーニのスタジオ録音とライブで聴き比べられるというわけだ。
一聴して聞き流しただけの印象だと、ライブとスタジオに差異がないように聴こえた。ポリーニのベートーベンは、硬質で構成的であるが故に、髪を振り乱したようなブザマさやマッシブさがないようにも聴こえた(もっともポリーニの固定概念がそう聴かせるのかとも思うが)。
しかし、良く聴いてみるとそれは全くの誤りであることに気づいた。ライブ盤ではポリーニの唸り声さえが、はっきりと収録されているではないか(スタジオ盤でもかすかに聴こえるがライブ盤ほどではない)。例えば「熱情」の第3楽章 Allegro, ma non troppo - Presto におけるこのスピード感とダイナミックさはどうだ。慄然として息を飲むとはこのことだ、そしてベートーベンはかくも哀しく美しかったのかと知り、全身で受けとめるにはあまりにも激しすぎることに気づかされた。聴き続けるには痛すぎる。おお!もうそのハンマーのような打撃はやめておくれ! 収録されている終演後の拍手を聴きハッと我に返った。私はどこにいて、一体全体なにを聴かされていたのだ。
改めてスタジオ盤の「熱情」を聴くとテンポもライブ盤より遅目でありエモーションを抑えているようだ。もっともポリーニを良く知る人は、このライブはポリーニらしさが十全に発揮されたとまでは言えない演奏らしく「ちょっと期待はずれ」であるらしい、ふーん、なるほどねえ。(こちらから)
残念ながら私にはポリーニもベートーベンも、これ以上語る言葉を持ち合わせていない。今はただこの至上の音楽に静かに耳を傾けるのみである。だからレビュは書かない、書けない、書けません。