毎度楽しみに読んでおります《弐代目・青い日記帳》で紹介されていた柳原慧氏の「いかさま師」を読んでみました(→http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1087)。
柳原氏は第2回『このミス』大賞受賞作家です。読むのは初めてですが、人物造形、ストーリーを含めて、あまり私の好みではありませんでした。内容に関する言及はミステリーですからいたしません。それよりも面白かったのは、彼の着眼点であるラ・トゥールにまつわる記述でしょうか。
(ラ・トゥールの)市民からの評判は極めて悪く、税金の徴収に来た役人の尻を蹴飛ばしたり、召使に豚を盗ませたりと、清廉な絵からは想像もつかない、俗っぽい人物像が、まことしやかに語り伝えられている。(P.72)
人間の持つ二面性、欲望と騙しあい、あるいはサバイバル戦略。ここら当たりが小説のテーマにもなっているようです。
私は高校時代(かれこれ30年前?)は美術部に所属していましたので、学校の図書館にあった美術全集などはひととおり眺めていました。ですからラ・トゥールについても独特の画風で印象(→Wikipedia)で摺り込まれていました。それでも、他の画家ほどに魅力的に感じなかったのは、陰影に富んだ独特の画風が、ひとつのパターンに陥っているように思えたせいでしょうか。それこそダリの言うようにただの「ろうそくの画家」
という意味で。
「いかさま師」(→Wikipedia)や「女占い師」という作品の存在にまでは気づかなかったのですね。いや、目にはしていましたが、そういう風俗画に興味が向かなかったのでしょうね。ラ・トゥールは2005年に東京で大々的な展覧会が開催されました。私は残念ながら!見逃してしまいました。ただの「ろうそくの画家」という認識の中にありましたので、積極的に食指が伸びなかったのです。今思えば残念なことをしたものです。
柳原氏がラ・トゥールの二面性を題材に、主人公やその人生の光と影、二面性を織り交ぜたという点においては極めて秀逸なミステリーに仕上がっていると思います。美術界や贋作に関する話題も非常に意表をついていてナイスです。柳原氏は日本大学芸術学部のご出身ですから、こういった着眼点の確かさを感じます。
ただ、最初に書いたように、人物造詣などには堀の深さが認められず、ちょっとプロットに走りすぎている気はしました。
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