2003年9月9日火曜日

アファナシエフのベートーベン ピアノ協奏曲


ベートーベン  
 ピアノ協奏曲第3番
 ピアノ協奏曲第5番『皇帝』

指揮:Hubert Soudant
ピアノ:Valery Afanassiev
演奏:Mozarteum Orchester Salzburg
Recording:December 12&13,2001(No.3)/June 10&11,2002(No.5)


アファナシエフとしては初のピアノ協奏曲録音は、モーツアルテウム管弦楽団と、東京交響楽団の首席客演指揮者もつとめるユーベル・スダーン氏との共演。2001年の同楽団定期公演のベートーベン協奏曲チクルスの一貫の中で録音されたものらしい。アファナシエフと聞けば、つい遅い極端な演奏を想像してしまう。ここに納められたベートーベンの協奏曲も例外ではなく、非常にゆったりとしたテンポで鳴らされている。ピアノに造詣の深い方の中には、どこが遅いとか、あの演奏と比べてどうだとか評することができることだろう。

聴いてみれば、確かに第3番 第2楽章など遅い! 私は今手元に比較できる盤がないので、感覚的なことしか書けないが、それでも中間部など眠ってしまうかのようなテンポである。第5番「皇帝」も例外ではない。

しかし全体を通して聴いてみるならばテンポの遅さを、それほど意外にも奇異にも感じなくなってくるから不思議だ。アファナシエフの演奏は、のべつくまなく遅いわけではなく、細かなパッセージの部分など軽やかに疾走する部分も聴かれる、むしろ緩急の綾が自在というべきなのだろうか。「皇帝」の第3楽章も、最初の出だしはつんのめりそうなテンポとして感じたが、慣れるにつれて曲が染み入るように体に馴染んでくるのだ。ヴィルトオーゾをひけらかして弾ききった演奏では、なかなかそうは感じない。

協奏曲第3番は、まだモーツアルト風の古典的な響きを残した曲に、ベートーベンらしさが萌芽しつつある曲だが、彼の演奏からは何かを予感させるような響きが説得力をもって迫ってくるように思える。第5番「皇帝」にしても、やたらと力瘤を固めたベートーベンとしてではなく、曲本来の優美さや構成力をしっかり伝えてくれているように思えるのであった。

この話題のアファナシエフであるが、今年の秋に来日してベートーベンなどを聴かせてくれることになっている。