今年春に大学生になった息子に、美術論の教科書として使っているけど面白いよと言われ読んでみたもの。確かにこれは良書です。(→Amazon)
本書はいわゆる西洋絵画概論ではありません。西洋絵画を観る面白さを理解するために、最低限必要な知識や、その後の「学び方」を概説するもの。本書のスタンスと簡単なガイダンスの後は、「神話画」「宗教画」「寓意画」「肖像画」「風景画」「風俗画」「静物画」という具合に章立てされています。西洋絵画と神話、宗教は切り離すことができず、肖像、風景、静物画は全てそれらの派生として生まれてきたことも説明されます。
絵画は自らの「主観」や「感性」こそ重要にすべきだという意見もありましょう。しかし筆者は(既に無意識のうちに雑多な知識や先入観が本人にあるため)、もはや「視線」は本来決して「無垢ではない」
という前提に立ち、
「感性」も学ばれる余地のあること。
他者の模倣から出発しない「独創的個性」は存在しない
と主張します。図版が白黒で少ない(講義ではスライドを映写しているそうですから)ことが少々残念ですが、語り口は平易で非常に読みやすくできています。明日にでも美術館に脚を運びたい衝動に駆られます。少しでも美術について勉強したことのある人にとっては、常識的なことしか書かれていないのでしょうけど。
こうして通読しますと、いかに私(たち)が美術的教養に対して無知であり、美術界が紹介する口当たりの良いジャンルのみをいたずらに受容してきたのみではないかと反省してしまいます。こんなにも面白い教育(教養)が最高学府に至るまで、公的教育機関においてなされていないこと。西洋のみならず自国についても歴史、美術、音楽、芸能などを相互的かつ複合的に扱う教科が存在しないことは、とても残念なことだと思います。公教育に頼らず興味あれば自分で勉強しろということなのでしょうけどね :-p。
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