すると店内には軽快にしてエネルギッシュなブラ4が高らかに鳴り響いています。ああ・・・これはC.クライバーに違いないと判じたとおり、音盤はグラモフォンの追悼版でありました。
手にとって見てみますと、《未完成》とブラ4、それに《トリスタン》から第三幕第三場という内容。1390円という安さに、夏の夜長に《トリスタン》も良からんと思って購入、早速聴いてみました。
《未完成》やブラ4については改めて私が言及することもないと思われるのですが、こうしてC・クライバーの演奏を聴いてみますと、どうしてこうもエネルギッシュでありながら流麗な音楽を奏でるのかと驚いてしまいます。
クライバーに特徴的な誇張された部分であっても、全体の流れの中では全く不自然ではなく聴こえ、聴きなれたフレーズに新たな生命が、音楽に接するたびに再生産されるかのようです。旋律がザワザワと波立つような興奮を与えてくれ、体の中でリズムが舞踏を始めるのです。決して野暮には傾かない情緒と力強さを秘め、同時に音楽の持つ美しさと哀しさを伝えてくれます。悟性と情熱との間の神一重のバランス感覚とでも言えましょうか。
ふたつとも初めて聴くわけではない演奏ですが、改めて感動してしまったのですが、もっと感銘を受けたのは《トリスタン》です。第三幕第三場とは「死と地獄(Tod und Holle!)」から「イゾルデの愛と死」に至る悲劇のラストシーンです。すなわち、クルヴェナールが「Tod und Holle! Allez sur Hand! (死も、地獄も、みんな揃ったな!)」と叫ぶところから始まり、メロートがクルヴェナールに討ち倒され、そのクルヴェナールも返り討ちに合って死んでしまい、マルケ王をして「Tot denn alles! Alles tot! (だれもかれも死んでいく!みんな死んでいく!)」と嘆かせる激動を経て、イゾルデの没我の愛の唄と自死に至る、哀しくも官能的なまでに美しい場面です。
イゾルデはマーガレット・プライスなのですが、この歌声が素晴らしい!この「イゾルデの愛と死」は何度も繰り返し聴いてしまって、聴くたびに涙してしまいました。声音とイゾルデの崇高なまでの愛の唄の美しさときたら、一緒に死んでしまいたいほどです(って死ぬなよ)。
《トリスタン》は、私はショルティ盤でしか全曲を通して聴いたことがないのですが、こちらのイゾルデはビルギット・ニルソン。同じ部分を比べて聴いてみましたが、もはやショルティ盤を聴くのが嫌になってしまうほどです。
やっぱり、夏の夜には《トリスタン》ですな、夜の生暖かい風に乗って「Nabet acht! (ご用心!)」というブランゲーネの声が漂ってくるようです。
最後はクライバーから話題が放れてしまいましたが、オペラの指揮云々はこれだけでは分かりません。機会があれば全曲盤を手に入れます。
最後にHMVの紹介を一部紹介しておきましょう。
なお、この追悼盤には、4種の非常に貴重な資料(クライバーがDGスタッフへ送った葉書)がブックレットに掲載されています。左ページに実物の写真(ドイツ語、残念ながらモノクロです)と右ページに英語、仏語の訳が掲載になったものです。うち2通は完全直筆のもので、残りの2通も本文はタイプですが途中に書き込みがあり、クライバーファンにはまさに必携といえるものです。ライナーノーツ(英仏独)も大変興味深く、全20ページのブックレットとなっております。
クラヲなクラヲには堪らない内容ということでしょうか。私は、まだ、読んでません。
こんなことしている間に、アテネでは柔道で上野が金メダルを取ったようですな。
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