イラクにおける日本人三人の拘束事件は各方面への波紋を広げています。
日本政府は早々に「自衛隊は撤退しない」という強い意思表明を行っており、アメリカからも評価されています。一方で拘束された家族は「選択肢を奪われた、なす術が無い」と呆然状態です(「筑紫哲也のニュース23」)。
ネット(例えばYahoo掲示板)を徘徊していると、今回の三人の被害者に対して否定的な意見が目に付きます。彼らに対し「サヨク」というレッテルを張りたがる方々や、自ら危険なイラクに何の手立ても無く飛び込んだのだから「拘束死志願」であるので「自業自得」、「助ける必要はない」、更には「殺されても仕方ない」「焼き殺してくれ」という意見まで散見されます。そういう方々は、好きで冬山登山やシケの日の釣りに興じる「バカども」は救助する価値なしと言っているわけでして、眩暈がしてきて読むのを止めました。
また、今回の拘束事件は「自作自演」であるという説まで登場しています。確かにテロ組織からの具体的要求が「自衛隊の撤兵」という一点であるため、何か腑に落ちない気持ちはあります。日本で放映されていない映像 も あります 。マスコミは自粛したか報道規制でしょうか。
��日の大手新聞は毎日を除いて皆この問題に触れていますが、いまさら引用せずとも内容は推察の通りです。ただその中で読売新聞は『昨年のイラク戦争の直前から、外務省は渡航情報の中で危険度の最も高い「退避勧告」を出していた。三人の行動はテロリストの本質を甘く見た軽率なものではなかったか。
』と被害者の自己責任を問う意見を表明しています。そして大手のどの新聞も、人質の人命救助を強く訴える論調が薄いものであることが印象的でした。
福田官房長官は記者会見にて、ダッカ人質事件の際、当時の福田首相が「人命は何よりも尊い」としてテロリストに屈したことに触れられたのに対し、「当時とは時代が違うし、意味合いも異なる」と答えたようです(前後の脈絡は分かりませんが)。
日本政府は「国際人道支援」を止めるつもりは無く、また人質奪還の可能性やストーリーを全く描けないのに、一つの選択肢を一番最初に切り捨てたわけです。政府が守るものは、海外で勝手にテロにあった同胞の命ではなく、西側諸国の中での日本の地位と立場であることをこれほど明確に示したことはないのではないでしょうか。
もし今回のテロが本物であれば、テロリストとの連絡手段がない以上、交渉の余地のない一方的でかつ卑劣な要求であることは論を待ちません。政府は後二日で何ができるのでしょう。情報収集と救助に全力を挙げると言っても、イラクに対する諜報活動や情報網が整備されているとは全く考えられません。
昨年11月、外務省は二人の外交官をイラクに派遣し死なせてしまいました。彼らはティクリットの会議に出席するためでしたが、ティクリットが当時最も危険な地域であることを外務省は掴んでいなかったということです。外交官二人は、アメリカの関係者なら必ず携行するはずの軍用地図を渡されていなかった可能性が指摘されています。
イラク派遣前のサマワの状況判断についても同様です。このような日本政府が、どうやって人質を救出するのでしょう。私はどう考えても(>というほどには考えていませんが ^^;;)先が読めません。陸上幕僚監部調査部などの情報部関係者などが積極的に情報収集ですか、それとも、アメリカ国防総省の下の諜報機関あるいはCIAからの情報提供と米軍による武装解除にでも頼るのですか?あるいは、ひたすら非道であることを訴え続けるだけでしょうか? (いや、実は、諜報網も解決ストーリーも描けていて、一気に救助可能なのかもしれません、私が知らないだけで)
翻って、自衛隊を撤兵させることはテロリストに屈したことになるのでしょうか。日本は「人質」さえ取れば組しやすしとテロリストの標的にされるということでしょうか。そうしたとき、テロリストは日本に対して今度は何を要求してくるのでしょう。人質を取っての身代金の要求ですか、あるいは国際テロリストの解放とか・・・。
今回の武装勢力がいかなる組織かは不明ですし、イラクの中には日本人に対して敵対意識を持つ人は少ないという報道もありますが、明らかにアメリカのイラク侵略と駐留、それに加担する国を「敵」とみなす勢力、あるいはそういう勢力を利用しようとする組織は存在するということです。
イラクではスンニ派のみならずシーア派まで両派共同でナショナリズムを展開し反米活動を始めつつあるという状況に変化してきています。フセインもNoであったが、アメリカもNoであると突きつけています。そういうアメリカに日本は加担していると見なされているわけです。アメリカや日本の立場に立てば、今回の武装集団はテロリストで犯罪者ですが、彼らから見れば侵略者以外の何者でもないような気がするのです。
「人道支援」とか「国益」とか「民主化」とか言いますが、結局は西側あるいは列強諸国の経済的「勝ち組」の理論でしかなく、アラブ諸国の立場からの、アラブ人に尊厳と敬意を払った上での活動では決してないはずです。アメリカの行動こそテロリストを増殖させているのではないのかという意見に私は少なくとも今のところ同調します。
今回の事件が茶番でなければですが、大事な一日が過ぎてしまったことは確かです。