ジャック・ウェルチの「わが経営」を上下巻読み通し、ジャックと一緒に長い旅を終えたような気になりました。社員数30万人近い多国籍企業のCEOになるには、どういう道のりがあるのか、そしてCEOに備わる資質とは何か、企業経営とはどういうものか、また企業とは何なのかということが、そして人生とは何なのか。本の端々にはジャックの人生哲学が読み取れます。
数多くの企業買収を手がけ、数え切れないほどのリストラを実行し、GEを根本から変え大きく発展させた二十世紀最高の経営者、その人間性の一端に触れたとき、深い感動さえ覚えてしまいます。
特に「第24章 CEOという仕事の本質」は、下巻の中で必読部分でしょうか。ジャックはCEOという仕事は最高、最高だ。(中略)これほどすばらしい仕事が他にあるだろうか。報酬は確かに高額、しかし本当の報酬はその楽しさにある(P.271)
熱く語ります。
また、彼が後継者を選ぶに当たっての内実を語った「第26章 「ニュー・ガイ」」は、この章だけでひとつの物語が書けそうなくらいのドラマです。ジャックが後継者選びを本格的に始めたのは、まだ任期を7年以上も残している1993年11月だと言います。後継者を23人に絞り込み個々の候補者の教育プランを入念に練り上げ、2000年までの昇進の筋書きを一人ずつ組み上げた(P.332)
と説明しています。人材を選別し、育てながらGEの企業文化に最も合った、最高のリーダーを徹底的に選び抜く、その過程において「政治的」なものがほとんど介入されないように、最新の注意を払って!
何が彼をここまで駆り立てるのか。エピローグにある2001年1月にジャックがGEを去るに当たって催されたボカ・ラントでの上級管理職ミーティング最終日でのスピーチに全てが言い尽くされています。
われわれは力を合わせて、想像もしなかったことをなし遂げてきた。そしてとても届かないと思っていたところにまで到達した。われわれはみな、不可能だと考えていた夢をかなえてしまった。私はと言えば、みんなとほとんど同じ立場からスタートし、そして社員全員の立派な仕事のおかげで幸運を手にすることができた。みなさんのすばらしい仕事に感謝したい(P.383)
ジャック入社三年目の1963年、ピッツフィールドのプラスチック工場を爆発させてしまったように、
これから先には全く新しい勝負が待っている。変革を起こそう。(中略)GEという組織をひっくり返し、揺さぶり、そして屋根を吹っ飛ばせ(P.380)
ユーモアも含めジャックにしか言えない言葉です。
本書を読み終えて、これに先立つ20年前、彼がCEOになることを推していなかった当時の副会長ジャック・パーカーの言葉を思い出します。
私は君を指示しなったし、GEを経営するにはふさわしくない人物だと思っている。この会社をめちゃくちゃにしないでくれ(上巻 P.146)
真の改革者、リーダーとは、どういうものであるのか、本書はその一例を見事に示しているといえます。