2021年3月31日水曜日

第97回 白日会展2021 絵画部門

「見えるものを通して見えないものを描く、写実の王道」



白日会は写実主義の画家たちの展覧会で、2016年から観続けています。(過去の白日会の様子 Clala-Flala記事)

昨年はコロナの影響もあり、美術館に作品陳列はされたものの開催は中止となり、関係者の方々はさぞ無念であったと思います。今年は開催できて本当によかったです。




ただ、作品そのものにコロナをテーマにした作品はありませんでした。コロナが白日会の写実絵画の表現とはなりにくいのかも知れません。

それはそれとして。

写実系絵画の画家さんたちの技量の進化と深化には目を見張るものがあります。その影響もあってか、皆さん本当にお上手です。いわゆる「スーパーリアリズム系とは一線を画しています。写真をママ映すだけでは絵ではない、というところでしょうか。

写実中心ですから、従来ながらの人物画、風景画、静物画というオーソドックスなジャンルに加え、ファンタジックな絵も見られますが、それでも「昔からの美術展」というイメージからは、なかなか脱却しきれていないところもあるようです。観ていて「型」にはまっていて、多少古臭い、面白みに欠けると感じることもないわけではありません。それは日展などでも同じように感じます。若手の参入率や会の平均年齢や性別はどうなっているのでしょう(今回の授賞者10名中、30歳台が4名、20歳代が4名)。もしかすると画家さんたちの平均年齢が上がってきているせいなのかもしれません。

何人かの白日会常連さんの絵がありませんでしたが(今回は急いでいたので、帰ってから確認すると見逃していたのもあったみたいです)見ごたえは十分。日展と同じようにとにかく作品数が多いんです。何度か白日会展に通っていますと、自分の好みも分かってくるものです。

自分はこういう展覧会の場合、作品を一つずつ鑑賞することはしません。最初から終わりまで、ざっと観て気になる絵を確認します。再び最初に戻って、第一印象からどう変わるか、見落とした作品がないか、違った観点がないか、などと自問しながらギャラリーを行ったり来たり、何度かこの行動を繰り返します。


今回の一番の異色にして圧巻は、ヤダシンタロウさんの「Memento mori, Carpe diem(いつか訪れる己の死を忘れずに、今ここにある時間を生きる)」とした震災後の津波被害を描いた作品でしょうか。ヤダシンタロウさんは2019年の白日会展でも「黄昏の中の風景」として震災後の世界を発表しています。積み重なる瓦礫に、今なお復興の途中であることと、多くの人の痛みを伴う出来事でありつづけていることを思い出させてくれます。





もうひとつは、横山修さんの「朝光・雲ノ平」です。登山をするので引っかかったというのもありますが、白日会において、このような抽象化された作品も通用するのかと、多少意外感がありました。マーク・ロコスとは画風はもちろん違いますけれども、まぶしくもしっとりした光と空気が描かれていました。



次は、オーソドックスに最初の部屋から受賞作を中心に。

トップバッターの都志真優奈さんの「ぼくときみ」はギャラリー大井賞、一般佳作賞です。タイトルと画題が微妙ですけど、非常に色鮮やかにして鮮烈な作品です。静物を描いていながら水平方向の色の変化がとても楽しい。最初はちょっと派手かなと思いましたけれど、飾る場所によっては非常に映える作品だと思います。色とモチーフとしてこういう扱いかたもあるのかと。




内閣総理大臣賞は河野桂一郎(@keiichirokono)さんの「はじまり」、これは解説不要ですね、圧巻の人物像です。ディテールも全く破綻ありません。





富田温一郎賞は丸山一夫さんの「黒い静物」。黒とはいっても、非常に豊かな「黒」を表現されています。それぞれのモチーフが一つの作品として成立するほどの完成度を持ちながら、画面に再配置されることで微妙な力感と静寂さを感じます。観るほどに引き込まれる作品です。




亀山裕昭(@latex_cult)さんの風景画「マザーフッド」も、亀山さんらしい作品。廃屋かと思ったら、意外に生活感のあるモチーフです。




久保尚子さんの「Reverie」は素直に、いい絵だなと。こういう色使いはとても好きです。よく見ますと、そんなにディテールを細かく描いていないんですよね。この絵も、それぞれのパーツを画面に再配置し、明暗と直線のコンポジションの中に蝶と鳥が動きを与えてくれています。とても理知的な作品です。




若い方々に人気の今井喬裕( @ghost23)さんの「朧」も解説不要です。彼の作品が好きな方にはたまらないでしょう。




第一室には木原和敏(@kiharakazutoshi)さんの作品や、山本大貴(@SILVE05)さんの作品もありましたが、これらも常連過ぎるので割愛です。


あとは、部屋順不同で作品を振り返っておきます。

友清大介さんの「ripple」。rippleとはさざ波という意味です。透明な水の表現が目を引きます。ディテールを見ると、そんなに書き込みしていないようですけれど、見事に海辺の砂浜です。それにしても、画家さんたちは、どうして女性を水に浸したがるのでしょう。水も滴るいい女というわけでもないでしょうに。このモチーフテーマは個人的には苦手です。




風景画としては、現代の都会を描いたものは意外と少ない、モチーフになりにくいと作家さんたちは考えているのでしょうか。ロペス・ガルシアのような日本の都市画がを観たいと思うのですがどうでしょう。ここでは、久留島透子さんの「夕あかり」と古澤新司さんの「夕映え」を挙げておきます。






オーソドックスな野山の風景としては菊池祐一さんの「熊笹」、石本敬子さんの「待春」、別府威徳さんの「八代海の島々」あたりが好きですね。






堀博喜さんの「春霞」、須藤克明さんの「夕まずめ時の港」のような、写実表現を離れた作品も悪くはありません。





静物画は意外と少なく、角坂優子さんの「百合の記憶」と黒木ゆりさんの「透明な時間」を挙げておきます。雰囲気が似ていなくもありません。





まだまだ紹介したい絵はありますがキリがないので、写真だけ載せてこの辺でやめます。






住井ますみ 「雨があがって」




井口和夫 「秋日影」




宮下陽子 「祈りのまえ」




小野月世 「Icarus」




伊藤英二 「群生-猛暑に耐える-」




白井秀夫 「冬の朝明け」




最後に、もう一度考えてみます。写実絵画とは何なのか、見えるものを通して見えないものが見えているか。それは画家の眼だけではなく、その絵を観る自分たちにも見えているのか。画家が写し取っている「現実」は、本当にいまの現実なのかと。

絵を鑑賞する私たちにとって絵を観るということは、画家たちの作品を通して、自分の中の憧れや幻想、心地よさ、激しさとか静けさといった感情、ときには恐れや痛み、過ぎ去った過去を観るということなのか。だとすると、自分たちの見ているものは作品の実態ではなく、自分の内実なのかもしれません。







以下は白日会展覧の解説より
第97回白日会展 授賞者 絵画部門


内閣総理大臣賞 作者名 河野 桂一郎 題名 「はじまり」
完璧主義の写実で白の普段着のワンピース着た少女、バラ一輪持って立つ。細部に細かい神経が通っていて、全体のバランスも不自然さ、まるでない。あまりの完全さは虚構に通じる。その虚構を思った事だ。
瀧 悌三(美術評論家)

文部科学大臣賞 作者名 池田 良則 題名 「西陽のチュニジア」
明快かつ変化のある構図を生かした作品である。光と影の変化を的確に表現し、移ろう時間の流れを感じさせる。色彩の扱い方も効果的で、各色の魅力を充分引き出している。
土方 明司(平塚市美術館館長代理)

SOMPO美術館賞 作者名 果醐 季乃子 題名 「尾道風景 渡船のある町」
思うに、作者の目の前に広がる瞬間的なビジョンは、作者の内面から沸き起こる追想と共に、直観された憧憬の世界へ一気に転調されるかのようだ。大胆な描きぶりは、みずみずしさと共に切なくも温かい情感を画面いっぱいに広げている。作者は無意識にも日本の伝統的な絵心(えごころ)を掴んでいるように感じさせる。本賞の目的と共に、白日会が標榜する「写実」の精神の見えにくい一端を提示している作品として評価した。
絵画部 常任委員会

特 別 賞
内閣総理大臣賞 河野 桂一郎 (絵画) 兵庫
文部科学大臣賞 池田 良則 (絵画) 京都
SOMPO美術館賞 果醐 季乃子 (絵画) 東京
富田温一郎賞 丸山 一夫 (絵画) 新潟
伊藤清永賞 岡田 髙弘 (絵画) 茨城
平松 譲賞 広田 稔 (絵画) 神奈川

会 賞
白 日 賞 (副賞ホルベイン賞) 有川 利郎 (絵画) 埼玉
白 日 賞 (副賞クサカベ賞) 田中 真季 (絵画) 熊本
準会員奨励賞(副賞 平澤篤賞) 宮本 絵梨 (絵画) 東京
準会員奨励賞 柳田 也寿志 (絵画) 長崎
会友奨励賞 佐藤 真衣子 (絵画) 東京
一般佳作賞 都志 真優奈 (絵画) 大阪
一般佳作賞 松村 はるか (絵画) 熊本
一般佳作賞 (副賞マツダ賞) 松村 盛仁 (絵画) 熊本
一般佳作賞 吉岡 諒二 (絵画) 奈良

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