2021年2月3日水曜日

ミャンマーのクーデターと非常事態宣言

ミャンマーはロヒンギャ問題を含めて複雑でよく分からないことが多いので、備忘録的に少し整理しておきます。分かっている人には、基礎知識、常識の範囲程度の事柄です。

2月1日 ミャンマーでクーデターとの報道がありました。国軍系テレビは1年間の「非常事態宣言」を発令したと伝え、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相、ウィン・ミン大統領を拘束したと発表しています。

ミン・アウン・フライ国軍総司令官はNLD(国民民主連盟)が大勝した2020年11月の総選挙(投票率70%以上、NLDが改選議席の83%を獲得)に「不正があった可能性がある」と批判していました。(ミャンマーでクーデター 国軍が全権掌握:日経新聞 2021年2月1日)

2011年の民政化移管後、オバマ政権はアウン・サン・スー・チー氏らのミャンマー民主化改革を支援。2012年11月には米大統領としてはじめて、テインセイン大統領とスー・チー氏のミャンマーを訪問したとして大きなニュースになりました。アメリカは大半の経済制裁を解除し米企業もヤンマーに参入することとなりました。それでも米の投資額は他国と比較するとそれほど多くはなかったようです。

2015年にはNLDが選挙で勝利をおさめ、それ以来ミャンマーを率いてきました。2008年に制定された国軍に有利な憲法により国軍にも25%の上下院議席が与えられ、憲法改正にも3/4の同意が必要など、軍は依然として支配権も有しており、NDLと軍政が連立を組む形となっていました。(オバマのキスを拒絶するスーチー女史の本音――ミャンマーで何が起きている? IT media ビジネス 2012年11月29日)(スー・チー氏、14日から訪米へ オバマ大統領と会談 日経新聞 2016年9月13日)

軍は欧米諸国からの批判や、世界的な孤立から中国との関係を強め、中国は逆に石油ガスのパイプラインや中国の軍事拠点を確保(軍港租借)するなどの利を得てきました。中国にとってミャンマーは地政学的に重要な拠点との位置付けています。軍がスーチーと連立を組むのは、国際的孤立を恐れ中国を取り込むことによって生き残りをかける戦略であったとの見方もあります。(アウンサンスーチーと中国 2016年9月14日 田中宇の国際ニュース解説)

アメリカもミャンマーを地政学的な要衝と捉えており、中国の影響力をそぎながら成長力を取り込みたいと考えていましたが、2017年のロヒンギャ問題は、外資の投資機運に水を差す形となりました。中国は他国と同様に「一帯一路」路線でインフラ他の投資を支援し、実効的な支配をしていきます。

トランプ政権はアジア外交政策を軽視したためアメリカの影響力が薄れ「台頭する中国、衰退する米国」という構造をつくりあげた、今回のクーデターは、それを象徴する出来事だと日経新聞はみています。(米中のはざま、退く民主化 ミャンマーでクーデター:日経新聞 2021年2月1日)

日本は中国を牽制するために、政権を掌握した国軍と、かねてから防衛当局間の関係を強化してきました。今回のクーデーターで欧米諸国が軍政を批判する中にあって、日本も厳しい選択を迫られそうと指摘しています。(アングル:目算狂う日本の安全保障、ミャンマーが軍政回帰:ロイター 2021年2月2日)

ロイターによれば、現行制度は国軍に非常に有利なのに、クーデターは国軍にとってメリットがない、国軍の行動は野党USDPの地位を向上させたいとの考えからだろうが、重大なリスクを伴い、ミャンマー国名からも国際社会からも支持されないだろうと指摘しています。(【解説】 ミャンマー国軍のクーデター、なぜ今? これからどうなる?  BBC 2021

年2月2日)

ロヒンギャはスー・チー氏の拘束を歓迎しています。かつてロヒンギャ問題をスー・チー氏が解決してくれることを期待していたのに、裏切られた過去があったからでしょう。(スー・チー氏拘束に歓喜、ロヒンギャ難民キャンプ AFP 2021年2月2日)

まとめると、オバマ米国などの支援のもとスー・チー氏の進めた民主化路線に対し、NDLと連立を組みながらも延命してきた強権政治の軍政。昨年11月の選挙でボロ負けしたため、トランプ張りの「不正選挙」と虚言を弄して、中国をバックに国軍はクーデターを起こした。これを国際社会は猛批判、みたいな構図ですか。バイデン大統領は声明で、経済制裁の復活の可能性や、ミャンマー国軍に圧力をかけるよう国際社会に呼びかけを行っています。

欧米の後押しで国政に出たスー・チー氏ですが、ロヒンギャ問題は国際社会から失望と批判を受け、欧米先進国の支持を失う形となりました。その隙をついてスー・チー氏も中国資本とのつながりが強くなったと思われます。今回のクーデターも、ミャンマーにおける中国をバックとした覇権争いということなのでしょうか。

今の国際社会は、グローバル化が主流ですから、今回のクーデターによるミャンマーの逆行は、表面的には許されるものではありません。

中国はどう見ているのでしょう。軍部でもスーチーでも実質的には、よほど中国に対する反対運動でも起きない限りは、ミャンマーは中国に支配されてしまっているようでもあります。ミャンマーの国民は独立意識が強いので、この状況を良しとは考えていないでしょう。軍も中国と接近してはいるものの、ミャンマーとしての独立意識も強いはずで、属国として甘んじるのも良しとしないはずです。お互いがお互いを利用しているのかもしれません。

スー・チー氏の立場を悪くすることとなった、ロヒンギャ問題について少し触れておきます。軍が弾圧、虐殺を行ったということになっていますが、そもそもは、ロヒンギャの武装勢力による攻撃がきっかけでした。誰かがけしかけています。

紛争ネタが元になってミャンマー情勢が不安定になり、スーチー氏の評価も逆転しました。スー・チー氏は立場的に軍部を全面的に否定できないということも分かっていたかもしれません。軍部に批判を集め、スーチー氏の立場も悪くなる…。

バイデン政権は、当面は軍のクーデターを批判しスー・チー氏を支援するでしょう。米軍産ネオコンも反中共の立場でしょうから、ミャンマーが中国寄りになることを望むはずもありません。

いずれにしても、ミャンマーはスー・チー氏を軸に動いてきました。中国の影はどちらの陣営にも見え隠れしています。スー・チー氏の人権活動家、民主化運動のヒロイン、女性政治家というイメージは西欧によって作られたものです。ある意味でカリスマとして利用されているのかもしれません。(政変ミャンマー、記者が見たスー・チーの虚像と顔 2021年2月2日 JBpress 近藤 大介)

ミャンマーで長年取材を続ける方の視点によると、スー・チー氏は現実的な政治家であり、国民の信頼は絶大、ミャンマー人は彼女をアメ・スー(スーお母さん)と呼んでいるとのこと。(「日本人はスーチーさんを誤解」 ミャンマー取材27年の記者が読むクーデター GLOBE + 2021年2月3日)


ミャンマー問題については、ほとんど詳しくないので、もう少し基礎知識とウォッチが必要です。

今後、いろいろな見方が出てくるでしょうから、しばらく静観します。

(その他の参考)

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