2021年6月17日木曜日

リュビーモフのピアノでシルヴェストロフの作品集を聴く

先日、グリモーのアルバムでシルヴェストロフ(Valentin Vasylyovych Silvestrov)というウクライナ出身の現代音楽の作曲家を知りましたので、Apple Musicから人気のアルバムとして挙がっているものをひとつ聴いていみました。

「Bagatellen und Serenaden」という2007年、シルヴェストロフ70歳の誕生日を記念して発売されたアルバムです。ピアノ小品と弦楽との合奏協で、ピアノはアレクセイ・リュビーモフ(Alexei Lubimov)、クリストフ・ポッペン(Christoph Poppen)指揮のミュンヘン管弦楽団の演奏。


  1. ピアノのためのバガテル (2005)
  2. 弦楽合奏のためのエレジー (2000-02) …マリナ・カピッツァに捧ぐ
  3. 弦楽合奏のための『スティル・ミュージック』 (2002) ~マンフレード・アイヒャーに捧ぐ
  4. 弦楽合奏のための『別れのセレナーデ』 (2003) ~イワン・クラヴィツに捧ぐ
  5. 弦楽とピアノのための『使者』 (1996) ~ラリッサ・ボンダレンコに捧ぐ
  6. 2つのディアローグとあとがき (2001/02) ~アルヴォ・ペルトに捧ぐ

  • アレクセイ・リュビーモフ(ピアノ)
  • ミュンヘン室内管弦楽団
  • クリストフ・ポッペン(指揮)

ピアノのリュビーモフは、シルヴェストロフの作品をすでにいくつか録音しているピアニスト。ここに収録されている曲は、シルヴェストロフ的音楽として代表的な作品ばかりです。

どの曲もシルヴェストロフ独特の抒情性と内向性を持っています。懐かしさと哀しさがないまぜになったような曲で、聴く人によっては、過去の様々な心象風景が浮かんでくるかもしれません。輸入元の紹介も、まさに以下のような紹介文になっており、曲から受ける印象を的確に表現しています。

まるで時の流れを遡るようなシルヴェストロフの音楽は、新しい癒しの音楽としても、ファンの間に少しずつ定着しています。アルバムの前半におかれた『バガテル』は、ピアノによる短い言葉で綴られた極めて叙情的な音楽です。これを聴く時、多くの聴き手はかすかな痛みをともなう郷愁で胸が一杯になってしまうでしょう。

どうして、このような感傷を彼の音楽から感じてしまうのかは分かりません。誰もが想起する感情であり、現代からは失われてしまった世界を慈しむかのような感覚があります。

そう、この「かつてあった美しい世界」が、既に失われてしまったということを知覚することによる痛みというものを、聴き手は、シルヴェストロフの甘美とも懐古的とも言えるようなメロディーやリズム、そして休符に感じ取ってしまうのかもしれません。

シルヴェストロフは2017年11月に来日しており、武蔵野市民文化会館で80歳記念ガラ・コンサートを開催しているそうです。

Mikikiというサイトに音楽ジャーナリストの林田直樹さんによるインタビュー記事が掲載されています。

それによると、シルヴェストロフの音楽は「調整音楽の最後の砦」と称されているとか。彼は、調性音楽とか無調音楽と区別することに異を唱えるとともに、現代音楽、前衛音楽が求める「新しさ」がピーク(限界)に達していると認識しているようで、メロディーに回帰すること、メロディの重要さを以下のように話しています。

 もう一つ大切なことは、前衛的な音楽から消えてしまったものがあるということ。それはメロディです。覚えやすい、耳に残るものです。古典音楽にはメロディがあり、しっかりと印象付けられます。
 猫だってメロディを作ることができますよ。メロディとは音楽の宝石なのです。それが今の時代には消えてしまいました。ときには詩が前面に出すぎてメロディが消えてしまっていることもある。
 メロディというのは音楽の最後の砦だと思ってください。その砦が崩壊してしまうと、音楽は騒音と混ざり合ってしまう。音楽は最後に近づいている。だが砦が決壊しないようにしなくてはならない。メロディはしっかり守らなければいけない

行き過ぎた無調音楽から調性音楽に回帰するというのは、珍しい流れであありません。むしろ無調音楽を好む人が、コアな音楽ファン以外に、いったいどれ程いるのかと。武満徹にしてもメロディアスな曲を多く作っています。

シルヴェストロフの描くメロディははかなく、玉手箱か何かのようで、ちょっとしたことで壊れてしまうのではないかというような儚さと脆さを持っています。それでいて、私たちが感じる永遠性のような、変わらない感情の流れをも表現しているようです。

「メロディが音楽の最後の砦」というよりも、彼の音楽は私たちにとっての「最後の砦」なのかもしれません。

時間があれば、もう少し彼の音楽を聴いています。

(参考)


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