アンドラーシュ・シフ(Andras Schiff)がピリオド楽器を使い、自ら弾き振りをしてのブラームス ピアノ協奏曲の録音。オケはエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団。
https://music.apple.com/jp/album/brahms-piano-concertos/1561178466
- ピアノ協奏曲第1番ニ短調 Op.15
- ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.83
- アンドラーシュ・シフ(ピアノ:ブリュートナー c.1859、指揮)
- エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団
ブラームスの場合、ピリオド楽器を使っての演奏や録音は少ない中で、ピアノ界の大御所というか巨匠であるシフがやってくれました。自分にとってシフは困ったときに戻るピアニストで好きな演奏家のひとりです。作品に対する深い洞察や真摯な姿勢は、いつ演奏を聴いても襟を正す思いです。
今回の演奏について、シフは以下のように語っています。
近年、私たちは重量級のブラームスの演奏に慣れてしまってきた。ピアノはいっそう強大に、パワフルになり、オーケストラは大規模に、個々の楽器も強く、たくましくなっている。演奏会場は巨大化した。~中略~ブラームスの音楽は、重たくも、鈍くも、分厚くも、騒々しくもない。そのまったく反対 ― 清明で、繊細で、特徴的で、ダイナミクスの陰影に満ちている。(輸入元情報 リンク)
私のような古いクラシックリスナーは、シフが語っているようなブラームスを聴いてきましたし、今でも求めているかもしれません。しかし時代も昭和から平成を経て令和に代わり(日本だけですが笑)、クラシック音楽に求めるものもおのずと変わってきています。いつまでも深遠で重厚長大な演奏をありがたがるというわけでもありません。そういう点から、クルレンテツィスやロトのような指揮者も受容されているのかもしれません。
さて、シフのこの演奏、確かにピリオド楽器だけあってキビキビとしており見通しが良い。余計なものがそぎ落とされて運動性能が良い感じです。シフは1953年生まれですから今年で68歳、演奏家としてはまさに円熟の年齢でしょうか。演奏は少しゆっくり目かもしれませんが、枯れたところはまるでなく、音楽が躍動しているようです。(もっとも、古楽や現代音楽を聴いている耳からすると十分に「分厚く」「騒々しい」んですけれど、比較論ですから。)
レコード芸術2020年6月号では、安田和信さんが以下のようにレビュウしています。
モダン・ピアノでは細部まで聞こえすぎてしまい、本来の味わいが希薄になってしまうと(シフが)思ったのではないか。
(中略)
独創者のプレゼンスは視覚的なものも大きく、細部の聴取が叶わないという特徴はむしろ本番の魅力なのである。
ここのところは、自分の印象とは少し異なります、改めて聴いて確認してみようと思います。
ちなみに、使われたピアノは1859年に製作されたとされるライプツィヒのブリュートナー社製の楽器をレストアして使っているとこのこと。相場ひろさんは、以下のようにこの楽器のことを語っています。
マスの響きの力強さよりも明晰さを重視した楽器とのことで、縦に積み重なった音の分離がよく、高域には独特の倍音があるのが興味深い。
ブラームスのピアノ協奏曲として、しばらくはこれ一本でいいかなと思わせるほどの出来です。それにしても、優秀なピアニストにとっては指揮者という存在は、もはや「不要」なんですかねえ。
( 参考)
- レコード芸術 2021年6月号「先取り!最新盤レビュー」P.85
- レコード芸術 2021年8月号「新譜月評」P.102、P.155
2021年8月追記
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