2021年6月25日金曜日

トーマス・エンコのBach Mirror

フランスのジャズピアニスト、トーマス・エンコ(Thomas Enhco)と、ブルガリアのマリンバ奏者、ヴァシレナ・セラフィモワ(Vassilena Serafimova)のデュオアルバム。2016年発売の「Funambules」に続く二人のデュオアルバムです(Clala:リンク)。

トーマス・エンコは、リーズ・ドゥ・ラ・サールの「BACH UNLIMITED」といアルルバムで知った演奏家です。

いずれもバッハの原曲をもとにしたトーマス・エンコ&ヴァシレナ・セラフィモヴァによる作曲・編曲。

https://music.apple.com/jp/album/bach-mirror/1544994156

  1. アヴァランシュ(雪崩) 
  2. ミロワール(鏡) 
  3. ファイアー・ダンス 
  4. 主よ、人の望みの喜びよ
  5. ヴォーテックス(渦巻) 
  6. オルガン・ソナタ第3番ニ短調 BWV.527~ヴィヴァーチェ 
  7. シャコンヌ 
  8. ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調 BWV.1015~アレグロ・アッサイ
  9. サイレンス 
  10. 羊は安らかに草を食み  
  11. スール・ラ・ルート (on the Name of Bach) 
  12.  G線上のアリア 
  13. 反射 
  • トーマス・エンコ(ピアノ) 
  • ヴァシレナ・セラフィモヴァ(マリンバ)
  •  録音時期:2020年6月1-5日 
  • 録音場所:パリ、サル・コロンヌ 
  • 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション) 


バッハ作品をモチーフにした大胆な編曲ですが、もとになった曲を知らないとしても十分に楽しめるアルバムです。下に引用した輸入元情報に詳しいですが、逆に原曲を知っていると、バッハの曲が新たな息吹で生まれ変わったかのような感覚を覚えつつも、バッハの持つ音楽の骨格が全く失われていないことにも気づかされます。

ピアノとマリンバのデュオによるジャンルを超えた大バッハへのオマージュ 

 300年前に書かれたバッハの音楽は未だに、新しい世代のアーティストに刺激を与え続けています。時代を超越して生き続けるバッハ。この『バッハ・ミラー』もそのことを力強く証明するアルバムです。ここで聴ける13曲の新しい音楽は、バッハの作品に全く新しい視点で自由にアプローチしたものです。1曲ごとにバッハの原曲をバーストさせ、反転させ、または増殖させて、新たな意匠が施されています。 1曲目の『アヴァランシュ(雪崩)』は、平均律クラヴィーア曲集第1巻から前奏曲第2番のモチーフを繰り返し取り入れ、有名な『主よ、人の望みの喜びよ』は、より新しい感覚へと変容している・・・という風に、バッハの原曲のモチーフやハーモニー、ムードをもとに、丸くて温かみのあるマリンバのサウンドと、クリスタルのように透明なピアノのサウンドとがダンスするような新しい音楽が生み出されています。

世界が注目するフランス・ジャズ界の若き貴公子トーマス・エンコと、ブルガリアのマリンバ奏者ヴァシレナ・セラフィモワのような感受性の鋭いアーティストにとっては、バッハの音楽は形式や調性を超えて、音楽を貫くリズムの流れのようなもの。『バッハ・ミラー』に渦巻く爽快な旋風は、2人の子供が水たまりに飛び込んで、雲と空が何か新しいものに変化していく様を楽しむような感覚ともいえましょう。そして、アルバムを聴き終わった時、単なるバッハ作品へのオマージュではなく、この大作曲家の深淵を覗いていたのだということに気かれ驚かれるはずです。

エンコとセラフィモワは2016年にドイツ・グラモフォンから共演アルバム『Funambules』を発売しており、翌2017年には大阪室内楽コンクール(「デュオ・フュナンビュル」として出演)Fest部門銀賞を受賞。その後2人はクラシックやジャズといったジャンルにとらわれない活動を続け、その充実ぶりがようやくこのコンビによるこのセカンド・アルバム『バッハ・ミラー』に結実しています。

(輸入元情報)

バッハの音楽は、どう煮て食おうと焼いて食おうと、バッハの音楽としての気品や強さ、崇高さが失われることがありません。どこかバッハという稀有な存在の掌で遊ぶ二人のような印象を覚えます。ふたりの編曲は、バッハの深遠、深刻、敬虔さを強調するというよりは、明るい面を浮き彫りにしているようなところもあります。有名曲のリコンポーズという観点からは、作品意味まで変えてしまう編曲というよりは、ポジティブな評価も込めて、ヒーリングミュージック的です。気軽に何度でも聴いてみようという気になりますし、ジャズ的なアレンジの編曲はより動的でダンス的で肉体の内側に響きます。

アルバム最初の「アヴァランシュ(雪崩)」は、MVがエンコ公式ページやApple Music上に公開されています。走る男女ふたりの姿が、まるで「君の名は」のアニメの一シーンを思い出し、なんだか笑ってしまいました。モノリス様の物体が登場するのにも今の時代を思わせます。



バッハの音楽からの引用や断片、変容を使っていたとしても、シルヴェストロフのような回顧的な感傷を覚えるような音楽にはなっていことにも音楽の不思議を感じます。

Vortexはバイオリンパルティータ第1番BWV1002のサラバンドの編曲。ライブバージョンがApple Musicで公開されています。セラフィモワのパフォーマンスにはびっくりです。特殊演奏技術というのでしょうか、ノートや本などを挟んでの打鍵など、そんなのありかと思わせるようなアイデアです。

エンコの公式HPには、他のいくつかの動画もアップされています。ジャズピアニストとしてのトーマス・エンコは、いくつか聴いてみようと思います。

(参考)

【トーマス・エンコ(ピアノ、アレンジャー、コンポーザー)】

世界が注目するフランス・ジャズ界の若き貴公子。1988年パリの音楽家一家に生まれた彼は、3歳でヴァイオリン、6歳からピアノと作曲を始め、9歳には世界的に有名なジャズ・ヴァイオリン奏者のディディエ・ロックウッドのグループに招かれ、アンティーブのジャズ・フェスティバルやシャンゼリゼ劇場でも演奏する機会を得ました。2005年パリ国立高等音楽に入学し、在学中に初のアルバム『Esquisse』を発表。2008年にはフランス・ジャズ界の最高の栄誉とされる「ジャンゴ賞」で最優秀新人賞を獲得するなど、現在最も注目を集めるピアニストのひとりとしてヨーロッパを中心に活躍を続けています。2009年には、伊藤八十八氏プロデュースによるジャズ・トリオ・アルバム『Someday My Prince Will Come』を発売し、日本での大規模なツアーも行われました。その後2019年にソニークラシカルに移籍してアルバム『Thirty』を発売しています。

【ヴァシレナ・セラフィモワ(マリンバ、アレンジャー、コンポーザー)】 

ブルガリアのマリンバ奏者。最年少のソリストとして数々のコンサートで華々しいデビューを飾った後、2008年にはシュトゥットガルト世界マリンバ・コンクールで最優秀賞を受賞。2014年にはカーネギー・ホールにデビューも果たしています。バッハから現代音楽まで幅広いレパートリーを持ち、常にパーカッションの表現の限界に挑戦し続ける意欲的な活動を行っています。

(輸入元情報)

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