2002年8月15日木曜日

テレマン 無伴奏フルートのための12の幻想曲

テレマン(1681-1767)という作曲家はJ.S.バッハと同時代に活躍し、数多くの作品を残している。当事の人気としてはバッハを遥かに凌ぐものであったということである。この作品は通奏低音を伴わないフルートの独奏曲。楽譜には鉛筆でテレマンの名と「ヴァイオリンのための通奏低音を伴わないファンタジー」と記されているらしい。しかし、音域や書法からトラベルソ(1キーのフルート)のための曲というのが一般的である。

曲は全部で12曲からなる。音楽愛好家または器楽学生のために書かれたもので技巧的には難しくないと解説には書かれている。手元に楽譜があるので、時々思い出したようにさわりだけ吹いてみるのだが、とてもではないが私レベルのモノが吹きとおせるような曲では全くない。作曲当事はベーム式フルートではなくトラベルソであったことを考えると、当事のアマチュア楽器奏者のレベルの高さを垣間見る思いがする。

フルート独奏曲というと、バッハの無伴奏パルティータが思い出されるが、テレマンのこの曲は、バッハほどしかめつらしくはなく、どこか自由な軽やかさがある。「幻想曲」という形式にも、そのような性質が現れているように思える。

1曲が2分から5分弱と非常に短い曲であるが、通して聴いてみるとバロックやロココの雰囲気に浸ることができる。ひとりで暗い教会の中に座り、ガラスモザイクごしの光を眺めているような気にさせてくれる。それでいて、バッハのように内面的で宗教臭くならないところが、テレマンの良さだと思う。(逆にそれが限界であり、テレマンの音楽を深みがないと評する専門家もいるようだ)

私はそういうテレマンのこの曲が、それゆえにこそ好きである。楽譜を追いながら聴いていても、単調な音の並びからどうしてこんなにも豊にして心地よい音楽が響くのかと驚きを感じ得ない。アルペジオと音の跳躍だけで出来ているような曲も多く、まるで練習曲を見ているような気になる。

しばらく聴いていると楽譜を追うことをやめてしまう。小細工はいらない、ゆったりと羽根を伸ばすかのような気持ちで音楽に漬かるのが良いように思える。どの曲も良い、いつかはキチンと吹けるようになりたいなあ、と思うのであった。





フルート:ジャン=ピエール・ランパル
Jean-Pierre Rampal
録音:1972年10月30日 埼玉会館大ホール
DENON COCO-70461(CREST1000)~COCO-85024の再発売品

この演奏はランパル50歳のときの演奏である。彼は数知れぬ録音を残しているが、テレマンの無伴奏全曲は、埼玉会館ホールで録音したこのライブ録音だけであるということには意外な念にとらわれる。

現代の古楽器に慣れた耳でバロックを聴くと、ちょっと高いピッチときらびやかな音色に違和感を感じないわけではない。しかし、数分もすると、ランパルの音色や演奏は、決して嫌味のあるようなものではなく極めて素晴らしい演奏であるとことに気付かされる。誰が何と言っても、ランパルだ。今更、彼の演奏についてあれこれと言うべきものでもない。

DENONのCREST1000というシリーズで再発売されているこの演奏が1000円で手に入るのだから、幸せな時代である。