ベートーベン:交響曲第7番 イ長調 op.92
テンシュテット(指揮)ミネソタ管弦楽団
1989年11月 lsu1010-2 USA
札幌で海賊盤のCDが入手できるところは光堂Pals21である。ここに訪れるたびに一応お義理に海賊盤をチェックすることにしている。定番や正規盤でさえ満足に聴いていないのに、マニアぶって海賊盤に手を出すのもいかがなものかとも思うのだが、たまに物凄い演奏に出くわしたりするものなので無視もできないのだ。(例えばテンシュテット指揮 ロンドン響とブレンデルによるブラームスのピアノ協奏曲第1番とベートーベン交響曲第5番 1990年8月30日のカップリングは凄い)
このCDはテンシュテットとミネソタ管弦楽団による1989年11月の演奏である(lsu1010 usa)。店の解説に惹かれてゲットしてしまったもの。
「ビッグファイブばかりでなく、この辺りのオケとの共演というのも食指をそそられます。比較的遅いテンポが採用され、厳格に刻むリズムは普段の激情型演奏とは一味違います。ふつふつと湧き上がるようなパワーが途切れません。音質は各所に傷がありますが抜群の演奏です」しかしクラシック初級者のわたしは、ビックファイブもテンシュテットの芸風にも通じているわけではない。
確かに音質はもこもこと非常によくない。フォルテッシモになると途端にもこもこ感が増してしまう。ダイナミックレンジの狭い昔の古いテープ録音を聴いているようだ。ノイズは少ないが音の伸びやかさは全く聴こえない。音割を起こしていないだけ幸福と言えようか。
最初cdウォークマンで聴いて、あまりの音の悪さに「これは失敗であったかな」と思ったものだ。しかし終演後の拍手の凄まじさから改めて自宅ステレオで聴いてみたのだが印象が変わった。
音質の悪いのをがまんして聴くならば、ここには濃厚なるベートーベンが展開されていることを否定できないと思うようになった。解説の通りテンポは遅い、馬鹿丁寧なとも言えるようなテンポ感だ。揺れも少ないようだ。ひとつひとつ切られた音は残響を残してホールの空気を震わせている。強弱の幅は広そうだ。オケが充分に指揮についていっているように聴こえる。ティンパニももこもこしているが、実際は非常にしっかり叩いているようだ。低弦も厚みのある音だ。ミネソタ管弦楽団のまともな演奏を今は知らないので、これが持ち味なのかどうかは判断がつかない。非常に機能的なオケに聴こえる。
第二楽章の歌い方も、正攻法のように攻めていながらにして体の奥底からこみ上げてくる感情を押さえることができない、という感じを受ける。第三楽章などでも弱音部分での丁寧な音楽作りには感心してしまう。細部にまで神経が行きわたっている、特に第三楽章の終わり方は特に印象的。
そういう音作りが演奏に何とも言えぬ迫力と説得力を生み出しているように思える。「ふつふつと湧き上がるようなパワー」とは良く言ったものだ。底知れぬベートーベンのエネルギーを感じ体の底が熱くなるような演奏である。ベートーベンの交響曲というのは、力瘤をためたこれでもかという音楽である。さらりと軽くなどとはなかなか聴けない曲だ。例えば有名なc.クライバーの名演などはスポーティーに駆け抜けてしまうが、そういう颯爽としたところは全くなく、あくまでも王道たるベートーベンをわざとらしくなく、それでいて熱く奏でてくれるている。
一端聴き始めたら音は悪くとも最後まで掴んで放さない迫力に満ちており、何を隠そう私は続けて二度も聴いてしまった。ただし万人にお薦めかといえば疑問は残る。
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