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2006年7月29日土曜日

桐山秀樹:ホテル戦争―「外資VS老舗」業界再編の勢力地図


昨今の東京は雨後の筍のように街中にクレーンが林立し、さながらバブルのような建設ラッシュです。さまざまな表情を魅せる超高層ビルの中に、超高級外資系ホテルが鎮座している様を眺めるにつけ、世の中本当に変わってしまったという思いを強くします。

これからオープンするザ・リッツ・カールトン東京(東京ミッドタウン)やザ・ペニンシュラ東京(日比谷)、または既にオープンしたマンダリン・オリエンタル東京(日本橋)などなど、一昔前ならば余程海外旅行通でもなければ名前さえ知らなかった外資系ホテル、このホテル攻勢は一体何なのかと、気になる人は気になることと思います。

桐山氏は東京のホテルを(1)スモール・ラグジュアリーホテル (2)グランドホテル (3)老舗ホテル の三つにカテゴライズし、これから外資を巻き込んだ新たな「ホテル戦争」が始まるのだと主張します。著者自らホテル好きで(仕事の取材でなのか、プライベートかは分かりませんが)いくつもの海外のホテルを泊まり歩いた(らしい経験に基づく)評価は興味深いものです。 

しかし、内容的にはかなり食い足りない。眼の肥えた顧客のホテル紀行文的な領域を超えず、ホテル経営という観点からの詰めは少ない。読みやすいけれど内容が薄いというのは、最近の「売れ筋」新書の特徴そのままです。ホテルの財産が建物のハードにはなく「サービス」というソフトと、それを支える人であるという指摘にも何の目新しさも新しい発見もありません。石ノ森章太郎の「ホテル」を思い出すまでもなく昔から変わらないことです。

私が知りたかったのは、それぞれのホテルの生き残り戦略。すなわち対象とするセグメント(客層)、それに対する収益の見通しなどだったのですが、この点の分析はほとんど皆無。ホテル経営的な分析を考えても、桐山氏の指摘する三つのカテゴリーはほとんど分類の体をなしていません。

もともと東京のホテル客室数は3万5000室ほど、これが一気に4万室まで増えるのだそうです。しかも、宿泊料金は最低でも5~6万円以上の高級ホテルなんです。誰が泊まるのか、こんなに出来て大丈夫なのかとは、業界関係者でなくても知りたいところです。

例えば日本銀行や三越に隣接してオープンしたマンダリン・オリエンタル東京に関する記述。

そのターゲットは日銀、兜町といった東京の中枢部の金融を訪れる、アジアや欧米の金融関係者と外国人投資家たちである。そして、日本橋の超高層ビルの最上階で、高級スパやエステを楽しんだ後、日本橋三越本店やコレド日本橋でショッピングを楽しむ「日本人女性客」をもう1つのターゲットとしている。(「第1章 外資ホテルの持つ「武器」と「戦略」について」P.38)

ちょっと画一的な解釈に感じます。(投資家がわざわざ日本に来て投資行為をするものなのか?) むしろ日本の上場していない企業オーナーや病院経営者(いわゆる日本の富裕層)を加えた方が良いのでしょうか。マンダリンの条件は、他でオープンする高級ホテルでもすげ替えが可能です。「日本橋三越」を「銀座や六本木、六本木の高級ブランド店に、「金融関係者」を「IT企業家」「海外賓客」などと入れ替えればどこのホテルでも通じるコンセプト。

おそらくは、こういう客を満足させる五つ星級の超高級ホテルが東京には今まで存在しなかったということ、更にそのようなホテルに宿泊する層が増加したことが一因なのでしょう。まさに今、開拓すべき新マーケットだったということか。

であるならば宿泊金額 数万円以上出すことを躊躇しないセグメントが、どこに、どの程度居て、彼ら彼女らがどのくらいの頻度でこれらのホテルを利用すると予想し、客単価として幾ら期待するのか。現在のホテル投資が将来の変化を見据えた「適切な投資」であるのか否かについて、もっと深く語って欲しかった。(>新書に期待する方が間違っています!)

それにしても、です。このような超高級ホテルが乱立する世界というのは、以前には想像できませんでした。そういうものが成立するマーケットが育っていなかった。やはりパンドラの箱がここでも開いてしまい、ホテル業界も極めて鮮烈な二極化傾向にあることを示していると考えるのは簡単。二極のどちら側にも入れないホテルや旅館、自らのポジショニングを定め切れないホテルは、本当に消え去るしかないのでしょうか。

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