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2007年10月6日土曜日

山田昌弘:希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く


格差論の火付け役となった本書も文庫本化されましたので、ようやく読んでみました。

本書は、ニュー・エコノミー下の社会において、格差が「量的格差(経済的量的格差)」から、個人の努力では超えられない「質的格差(職種やライフスタイル、ステイタス)」の格差を生み、最終的に「心理的格差(希望の格差)」に繋がると捉えた点が斬新でした。現在の格差の最大の問題点は、将来に希望を持てる人と将来に絶望している人に分裂してゆくのだと。

学者は、とにかく分析が仕事です。山田氏は1957年生まれ東大卒。彼の主張するところの「パイプライン」(下図 本書P.193より転載)がうまく機能していた時代の成功者です。私を含め高度成長やオールド・エコノミーの時代に生まれた者は、将来の見込みも持たずに(持てずに)過ごす現代の一部の若者に対して根本的な疑問を持っています。自分の子供が住む日本社会に対する漠然たる不安もありますが、このままでは自分の年金が受け取れなくなるという利己的かつ現実的な不安が本音でしょうか。何故こんなことになったのか、自分たちと彼らは何が違うのかと。


そういう疑問には、本書はキッパリと明確な回答を用意してくれています。その点においては評価できる内容といえましょう。しかし、分析というのは目的があってするものです。人を納得させるための分析では、思考の遊戯でしかありません。分析結果をもとにどういうアクションを提示するのかが最も重要で、その点において本書は愚書の類と同一です。

最終章に「9 いまなにができるのか、すべきなのか」という章が設けられています。現在生じている問題は経済的格差以上に心理的格差(希望格差)であるとし、リスク化や二極化に耐えうる個人を、公共的支援によって作り出せるかどうかが、今後の日本社会の活性化の鍵であると主張しています。努力すれば豊かな生活が報われる社会を実現(復活)させるために、山田氏は以下の提言をしています(P.276-282)。

  • 能力をつけたくても資力のないものには、様々な形での能力開発の機会を、そして努力したらそれだけ報われることが実感できる仕組みを作る → 学校システム、職業訓練システム、誰でもできる比較的単純な仕事に対して、努力してスキルをつければある程度評価されるというシステムの導入
  • 自分の能力に比べ過大な夢をもっているために、職業に就けない人々への対策 → 過大な期待をクールダウンさせる「職業カウンセリング」をシステム化
  • 公的に(個人の)コミュニケーション能力をつけることを支援する → 自分のコミュニケーション能力のなさを自覚し、自分の理想通り(の相手)など存在しないことを経験から学ぶ
  • 収入は低くてよいからのんびり農業をやりたい、テレワークで暮らしたい、一生一人で生活したいなど、新しいライフスタイルを目指す人(中略)に対する具体的な実現支援策を用意
  • 政府がキャリアカウンセリング事業を、学校教育、生涯教育に大々的に取り組む
  • 若者にも「逆年金」制度

提言はこれだけです。こういう対策を行わなければ、若者は「希望」を持つことができず、アディクションに逃避し、さらに「エンビー型」の嫉妬心による犯罪、すなわち「不幸の道連れ」が増える可能性のあることを別箇所で指摘しています。

「エンビー型」犯罪の究極が赤木氏(→http://www7.vis.ne.jp/~t-job/)の「希望は戦争」でしょうか。ここまで書いてきて、赤木氏をはじめとしてして「フリーターを罵倒している」という論調の意味が、何となく分かってきたような気がします。分析は一面正しいのですが、何かがまた抜け落ちているのだなと。

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