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2007年12月22日土曜日

やっとコジェナーのヘンデルを聴いてみました

古楽系ブログで今年随分と話題になったヘンデル、そして、一部で評判の分かれるコジェナーのヘンデル・アリア集を、やっと、そしてボチボチ聴いています。ヘンデルもコジェナーも私には全く未開拓分野ですから、とやかく言うことはできません。コジェナーの唄い方がヘンデルに合っているのかという問題もありますが、彼女の古楽に対するアプローチとともに、聴き逃すことのできない盤と言えます。


 Ah! mio cor/HANDEL ARIAS
Magdalena Kozena(ms)、Venice Baroque Orchestra Andrea Marcon
ARCHIVE 477 9547



ライナーを読みますと、コジェナーはヘンデルに現代にも通ずる人間の心理とドラマを読み取っており、劇中の人物の情感を的確に表現するために、あざといまでの歌唱力を駆使しているようです。収録曲のタイトルを眺めるだけで、ちょっと凄いですよ。

  1. 歌劇「アルチーナ」~ああ、我が心よ! お前は踏みにじられた!
  2. オラトリオ「ヘラクレス」~どこへ逃げたらよいの?
  3. 歌劇「アグリッピーナ」~ああ、不安が迫り来る
  4. 歌劇「エジプトのジュリオ・チェーザレ」~希望がこの心を照らしつつある
  5. オラトリオ「ヨシュア」~ああ!もし私にジュバルの竪琴があれば
  6. 歌劇「アリオダンテ」~不貞の女め、情夫の胸に戯れるがいい
  7. オラトリオ「テオドーラ」~眩しき太陽よ―深き闇よ
  8. 歌劇「ガリアのアマディージ」~苛烈なる地獄より呼び出さん
  9. 歌劇「オルランド」~ああ、地獄の妖怪め! ― 冥府の番犬ケルベロスが ― 美しい瞳よ、どうか泣かないでおくれ
  10. 歌劇「アリオダンテ」~暗く不幸な夜のあとには
  11. 歌劇「リナルド」~私を泣くがままにさせて

彼女の過剰さが話題となった*1)、たとえば9曲目の「Orlando」での歌唱、あるいは2曲目の「Hercules」で演ずるDejaniraの表現。どちらも狂気を身にまとった女性の、引き裂かれんばかりの心情が、凄まじいばかりに迫ってきます。これは確かにバロックの表現を越えているのではと感じる部分です。しかし、バロックがおとなしく神聖で美しいばかりの音楽であったというのは、私のような不勉強な者の勝手な思い込みかもしれないのです。

コジェナーがMarc Minkowskiと仕事をしているときにuglyに歌うことの効果を学んだと言います。

Baroque music is not all about beauty; sometimes you need a sound that may be not so lovely yet says so much more about the text, and particularly the character's madness at that moment.

��曲目の「Alcina」からの女王Alcinaの嘆きも真に迫ってきます。まさに女神のように振舞っていたAlcinaが、人生において初めて恋に落ちた心情を歌っています。この歌をブラインドで聴いてヘンデルの作であると、バロックに詳しくない人が特定できるでしょうか。あるいは伴奏がバロック・オーケストラから現代のものに変ったとしたらどうでしょう。

These are special moments which everyone can find deep in their own experience.

それほどまでにヘンデルの音楽は豊穣であり、そして、それを歌うコジェナーの表現は、「ある意味において」的確だといえます。ただ、ただ、コジェナーのパワーに圧倒されっぱなしです(失笑)。

ヘンデルのアリアは長くて眠くなるという印象がありましたが、ヴィヴァルディのそれに負けず劣らずに技巧的な曲もあり、また、ラストの有名な曲を始めとして、信じられないくらいに美しい曲も収録されており、ヘンデルのアリアは確かにバロック歌手やバロックファンにとって至宝であるなと思った次第です。 もっとも、心情が大切だからと、歌詞の対訳を調べ劇の背景を調べてアリアの意味づけを行う程には、今はパワーがありません・・・。

こういうヘンデルに対して、ブログ「庭は夏のひざかり」のSonnenfleckさんは下記のように書いています。

このアリアに限らずあんまりヘンデルや古楽を聴いてる実感がないのがこのアルバムの特徴で、最強の個性派女優としてのコジェナーが前面に押し出されて来、彼女のスタイルによる何か新ジャンルのうたを聴かせてもらってる感じ

他に例えるとすると、「バルトリの歌うヴィヴァルディ」みたいなものなんでしょうか。私にはそこのところがまだ判断つきません。もう少しヘンデルのアリアを聴いてみる必要がありそうです。

  1. コジェナー、ヘンデルで見つけたエントリ
    おやぢの部屋2
    庭は夏の日ざかり
    ぶらぶら、巡り歩き

3 件のコメント:

  1. こんばんは!
    狂気に落ち込んだり「ugly」だったりするアリアばかりをあえて集めて、聴き手の神経を揺さぶるような歌い方をあえて追求して、そうして出来上がった一貫性のあるアルバムですよね。それは間違いないです。
    そうしたことから、器楽のバロックではすでに当たり前すぎるこの手法が、声楽のバロックでは意外に手付かずなのかもなあと思ったりします(バルトリは突然変異?)。1970年代の終わりに初めてアーノンクールの《四季》を聴いた人は、もしかしたら同じような印象を持ったのかもしれません。

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  2. トラバ、有り難うございます。
    バロックオンリーのものとしては、なんとも言い難いコジェナーですが、芸術の表現としてはこんなのもありと思うのです。
    そういう冷静かつ公平(?!)な評価(ある種の感動も得たし)として、今年のベストにノミネートしています。

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  3. 私の場合、それほど古楽に親しんでいるわけではありませんが、「こんなのアリ?」あるいは「これもアリ?」と思いながら聴いています。情念むき出しですから、何度も聴く盤かといえば疑問も残りますが、コジェナーのほかの演奏も聴いてみたくなったことは確かです。

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