東野圭吾「白夜行」
非常に長い小説だが一気に読ませる力がある。
東野の作品には、実はあまり接していない。「秘密」は良い作品だが、ちょっと耐えられない結末で、後味が悪い。「容疑者Xの献身」そうか。東野は自己犠牲的な愛をテーマとすることが好きなのかと感じた。その自己犠牲が報わていれるか否かは、読者の感じ方次第というところか。
主人公二人の生きた約20年の時代の移り変わりを背景にしながら、二人の暗く奇妙な関係性が徐々に浮かび上がる。最初は登場人物が多く少し辟易するが、読み返してみれば、それぞれが不可欠なキャラばかり。物語を読み進めるに従い、仕組まれた人生に慄然とする思いである。謎が謎のまま提示されて終わるところも、本作の特徴であろうか。
この小説も、読みようによっては、自己犠牲的な愛を貫く亮二と雪穂のゆがんだ愛の物語でもある。愛の形が見えない、報われているのかどうかが分からない。主人公たちが極めて利己的なのも同じ。女性の方が精神的にタフなのもそうか。それぞれが、それぞれの考える愛の世界で満足している。ある意味で禁欲的ともいえる。だから物語に孤独さと静謐さが漂う。
物語の作り方には疑問も多い。暗い過去、決して癒すことのできない傷を負った二人ではあったが、なぜにそこまで、自分たちの人生を、小学生の時期から冷徹に規定できたものか。野心と強靭さは「事件」がきっかけの後天的なものではなく、むしろ先天的なものではないのか。主人公たちの鬱屈た幼少期の出来事と、その結果から生じた事件をバネとして、世の中に復讐しているのではないかとさえ思えるような人生を選び取るのは、やはり二人の生まれながらのダークさとタフさ以外の何ものでもない。
映画は観ていない。キャッチが「殺したのは心」、的確な表現ではある。が、心は一旦殺したら最後、生き返らないものではない。二人は心を「殺し続けた」。そこに底知れぬ、想像も出来ぬほどのダークさが潜む。深く暗い余韻を残す。二人の最初の行動には同情はできるものの、その後の生き方に感情移入はできないし、赦すこともできない。
(ファースト・インプレッション)
本作は、震災中の暇つぶしに買った、「白銀ジャック」が、評する気にさえならない作であったので、やはり代表作を読むべきだと考えて購入。最初の十数ページを読むだけで、これは確かに大作の名に恥じないなという予感。(ファースト・インプレッション)