以前紹介したように、グールドが弾くモーツァルトのピアノ・ソナタはとても個性的です。ピアノの先生は間違っても生徒にグールドのモーツァルトを薦めないと思います。本盤は抜粋版ながらも、そんな異様なモーツァルトの片鱗を堪能することができます。
異様に遅いK.311《トルコ行進曲付》を除いてテンポは極端とも言えるほどに速い。繰り返しをバッサリと削除しているようで演奏時間もとても短い。従って、ともすると冗長で退屈になりがちな曲が、キリリと引き締まりドライな印象を与えます。ドライと言えば、これ以上に乾いた表現は考えられません。あの愛すべきK.330さえもがグロテスクなまでに変形し無数の音の粒が跳ね回ります。
ピアノ音に混じってグールドの調子はずれの鼻歌も聴けます。彼の歌を聴いていると、本当にグールドはモーツァルトが嫌いであったのかと疑問になります。グールドのモーツァルトは他の誰の演奏にも似ていず、その天衣無縫さは驚くばかり。こんなのはモーツァルトは認めないという人もありましょう。しかし、これが私には何とも小気味良い。音の煌きと躍動するリズム感。まるでチェンバロのような反応の良さ。そして、モーツァルトが秘めた哀しみと悦びの表現は、グールドの演奏であっても全く損なわれることなく、聴くものに愉悦と快感を与えてくれます。
この演奏にハマってしまうと、抜粋盤では全くモノ足りなくて、全曲を聴いてみたくなります。いつか入手することとしましょう。
- 第8番イ短調K.310
- 第10番ハ長調K.330
- 第11番イ長調K.331《トルコ行進曲》
- 第12番ヘ長調K.332
- 第13番変ロ長調K.333
- 第15番ハ長調K.545
- グレン・グールド(p)
- SRCR2068
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