2006年10月16日月曜日

歌舞伎座:芸術祭十月大歌舞伎 夜の部 髪結新三


続くは幸四郎の「髪結新三」。渡辺保氏の劇評を始め、幸四郎が重いだの立派過ぎるだの役じゃないだのとの感想が多い。幸四郎は、素のキャラが男前ですし立派なんですから仕方がないです。観ていて、こういう趣向は勘三郎のような役者の方が、どこか憎めない小悪人という感じでは合っているのだろうかなとは思いました。



でも、幸四郎の新三が悪いか、というと、そうは感じない(>他に比べる演技がないですから)。いわゆる悪党の凄みという点ではかなりの迫力が出ている。狡猾さ、抜け目のなさ、残忍さ、恫喝、矜持とへつらい、潔さ、よくよく観れば、役としちゃあ惚れ惚れするような悪党ではありませんか。


幸四郎の独特の台詞まわしも最初は違和感があるものの、慣れてくれば序幕の重さも取れてきて、新三の悪党ぶりが面白く思えてきます。弥十郎演ずる家主長兵衛との掛け合いは、幸四郎の役というか柄に合わない気がするのですが好演だったのではないでしょうか。前半のドス黒い悪党が、弥太五郎源七をもコケにしたほどの者が、家主にやり込められてヘーコラしてしまうギャップが良いです。このギャップのコミカルさには観客も沸きます。こういう莫迦ばかしさ、単純さも歌舞伎の面白さでしょうか。弥十郎にも賛否があろうかと思いますが、悪党をコテンパンに豪胆にやっつける快感は、この人ならではのものでしょうか。


渡辺保氏は劇評で、


新三内はきわめて現代的で、大家につめよられて「おれもよっぽど太え気だが」で勝奴もろともヅッこけて倒れたのには仰天した。これは黙阿弥ではなく、ただの喜劇である。


とあります。私が見たときには握りこぶしを固めて長兵衛の前でしゃがみ込んで悔しがるという風でした。これは途中で変えたのでしょうかね。(>よく思い出せなのですが、最後に長兵衛に一喝されたときにコケていたかもしれない・・・。だとしてら劇の流れとしてはごく自然で、私にとっては違和感がなかったということでしょう)


有名な演目ですから、また違う配役で観ると変わった感想を持つかもしれません。


【歌舞伎座HPより】

二、 梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう) 髪結新三


序 幕 白子屋見世先の場、永代橋川端の場

二幕目 富吉町新三内の場、家主長兵衛内の場、元の新三内の場

大 詰 深川閻魔堂橋の場


髪結新三(幸四郎)、家主長兵衛(弥十郎)、手代忠七(門之助)、加賀屋藤兵衛(男女蔵)、下女お菊(宗之助)、家主女房おかく(鐵之助)、白子屋後家お常(吉之丞)、車力善八(錦吾)、下剃勝奴(市蔵)、お熊(高麗蔵)、弥太五郎源七(段四郎)、


出張専門の髪結いで小悪党の新三(幸四郎)は、材木屋白木屋のひとり娘お熊(高麗蔵)と、恋仲の手代の忠七(門之助)をさらい、白木屋から身代金をせしめようとします。誘拐された娘を取り戻そうと白木屋から依頼を受けた親分の弥太五郎源七(段四郎)が新三のもとを訪れますが、持参した金額の安さをなじられ、交渉は決裂。が、続いて現れた老獪な家主の長兵衛(弥十郎)が、まんまと新三をやり込め、お熊を取り戻すことに成功します。顔に泥を塗られて収まらない弥太五郎源七は、閻魔堂橋のたもとで新三を待ち受け、仕返しに及びます。江戸の市井の風俗をみごとに活写した、河竹黙阿弥の代表作。ワルでありながら、どこか憎めない新三役に、幸四郎が初挑戦します。