2004年7月7日水曜日

大澤壽人:ピアノ協奏曲「神風協奏曲」







      NAXOSの日本作曲家選輯から大澤壽人のピアノ協奏曲「神風協奏曲」(1938)を聴いてみました。HMVで『戦前の日本、クラシック音楽でも欧米に追いついていた!!』とベタ褒め状態であったので、1000円だし騙されたと思って買ってもいいかくらいの軽い気持ちでゲットした盤でした。


      聴いてみた感想は、ただ一言「カッコイイ!」です。これが戦前の日本人の手になる作品とは驚くばかり、今まで何故に無名であったのか、日本音楽史の不可解さを思い知ります。




      片山杜秀氏の渾身のCD解説(12頁に及ぶ!)が、これまた凄まじく、思い入れの強さが伝わってきます。その解説にりますと、大澤壽人氏(1907-1953)はボストンやパリで音楽を学び『ドビュッシー、ラヴェル、シェーンベルク、バルトーク、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、六人組、ヒンデミット、ハーバのやり方から、ガーシュインをはじめとするアメリカのポピュラー音楽の感覚や技法までこなし』、無調的半音階も、全音音階も、日本的5音階も・・・まあ、とにかくなんでもアリみたいに吸収してしまったらしいです。


      ピアノ協奏曲第3番の副題「神風」とは、第二次大戦中の日本軍による「神風特攻隊」ではなく、朝日新聞社社有の三菱航空機製の民間飛行機をさし、当時の日本の航空技術の精鋭であり科学技術の象徴であったそうです。1937年に「神風」は立川からロンドンまでの最速飛行記録を樹立したのですとか。で、この協奏曲は何を表現しているのかといえば『飛行機の飛ぶ様だと言ってしまって、おそらく差し支えあるまい』と片山氏は書いています。


      絶賛する解説を読むと聴く前から臆してしまいますが、虚心に返って音楽に接するなら、音の美しさ、リズムの美しさ、音楽の飛翔するさまなどを堪能することが出来ます。第一楽章や第三楽章でのピアノパートは技巧的であり強靭でそしてなおかつ華麗です。音楽は驀進するエネルギーと、希望に満ちた明るさに支配されているようにも思えます。まだ三菱に日本の未来を託すことができた幸福な時代だったのですね。


      第二楽章などは、どうしたのかと思うほど妖艶なサキススフォーンのジャズ風のテーマで始まります。片山氏は『夜間飛行の音楽、ないしは夜のジャズ』と書いていますが、なかなかこなれたジャズ風カンタビーレが懐かしさを誘います。ちょっとビッグ・バンド風のくささがありますが、そこがまあ味とでもいうのでしょうか。だってあなた、1938年の作品ですよ、まだ進駐軍もチューインガムも経験していないんですよ、一般の日本人は。後半はピアノパートも暴れ出して結構いけます、この楽章が三楽章中で一番好きですね。

      こうして聴いてみますと、当時の日本の音楽レベルを遥かに凌駕しているというのも納得してしまいます。なぜにこのような音楽が、大澤氏によって生み出されそして忘れられたのでしょう。これほどの柔軟性を有する曲が生まれた背景に、当時の日本人のエネルギーと優秀さを知る思いもします。


      同時カップリングは交響曲 第3番ですが、これについてはそのうち。


      少し長いのですが、NAXOS、TOWER RECORDS、HMVのサイトから解説を引用しておきます。(解説はCDの旬が終わると読めなくなることもありますので)



      知名度の高さを分母に、未知の音楽との出会いの喜びを分子にとれば、恐らくは最も高い数字が出る邦人作曲家の一人が大澤壽人(おおざわひさと)でしょう。ピアノ協奏曲第3番は、少なくともプロコフィエフのピアノ協奏曲がもう1曲増えたと言えるほどの充実度を示しています。第二次世界大戦前の日本で、これほどモダンなピアノ協奏曲が書かれていたとは信じられません。作曲当時、聴衆に全く理解されなかったという話にも思わず納得。交響曲第3番も同様で、ここまで埋もれていたのが不思議でなりません。作曲家の没後半世紀を経て時は21世紀、ようやく大澤の時代が到来したのです!

      NAXOS http://www.naxos.co.jp/8.557416J.html



      戦前の日本、クラシック音楽でも欧米に追いついていた!!
      CDのジャケット写真に使われている、朝日新聞社の社有飛行機「神風号」は、三菱製の97式司令部偵察機の民間版です。第二次世界大戦直前、日本の航空機技術力は頂点に達し、世界最高水準の航空機を次々と生み出していました。開戦劈頭、陸海軍の航空機が圧倒的な性能を見せ付け、英米の航空、関係者が度肝を抜かれたのは有名です。
      同時代、航空技術界同様に、クラシック音楽の分野でも、わが国に世界水準の作曲家が存在していました。神戸出身の大澤寿人です。当時最先端であったモダニズム音楽の語法を自在に駆使し、伝統的な日本音楽、西洋クラシック音楽のロマン派と近・現代派、さらにジャズの要素まで巧みに編みこんだ見事な管弦楽作品を書き上げました。残念ながら、当時の日本では、大澤の交響曲や協奏曲を満足に演奏できる環境を整えるのが難しかったために、せっかくの力作が次第に忘れられて行きます。もっぱら関西で活動し、戦後10年もしない内に亡くなってしまうために、20世紀の後半はほとんど忘れられた存在になっていました。
      ようやく2001年になってから、片山杜秀氏の尽力により、この埋もれた名作曲家の作品に光があてられ、真価が明らかにされました。大澤作品の蘇演は、日本文化史上の一大イベントとも言えるものです。他の様々なジャンル同様に、昭和初期のわが国では、文化面で爛熟期を迎えていたということを雄弁に物語るものでしょう。
      このナクソスCDは、オール・ロシア勢による、パワフル、かつ技術水準と情緒表現の双方で不足のない優秀な演奏を収録したものです。片山杜秀氏による、一万四千字に及び、詳細を極める解説書の読み応えも十分です。
      ��資料提供:株式会社アイヴィ)

      TOWER RECORDS http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=738381&GOODS_SORT_CD=102




      ドイツかフランスに生まれていたら、音楽史年表に普通に名前が載るような有名作曲家になっていたかもしれない・・・・・そんな感想を持ってもおかしくない程、忘れられた神戸の作曲家大澤壽人の管弦楽作品は、クラシック音楽の王道である交響曲や協奏曲としての完成度が高いものです。聴き返す度に新たな発見を覚え、さらなる興味が高まる正真正銘の名曲といえるものです。

      ピアノ協奏曲第3番 変イ長調「神風」(1938年)

      第1楽章冒頭では、トロンボーンと弦楽が力強く印象的な3音を強奏します。この音型は「エンジンのモットー」といえるものであり、この協奏曲全体のライトモティーフとなる重要なものです。この音型をピアノも受け、スケルツォ風の行進曲の動機(0:50)も金管楽器を伴って登場します。主部の開始(2:15)は、飛行機が離陸する様を描写していて、様々な動機が組み合わさり、力強い飛行を表現する第一主題群を形成します。全管弦楽で演奏される第二主題(2:55)は、高空を飛翔するかの様な晴れ晴れとしたものです。この後、両主題と冒頭のモットーが、多彩な技法を駆使して目くるめくような華麗さで展開され、流れるようなピアノのカデンツァ(7:05)を受けて、高揚する再現部が始まり、飛行機が飛び去るように終わります。

       第2楽章アンダンテ・カンタービレは、いわば夜間飛行風の音楽といったもので、サキソフォーンとクラリネットがブルース風の導入を吹き、ピアノによる、ブルーノーツと日本音階を共に取り入れた主題が始まります。「エンジンのモットー」が巧みに隠された技巧的な作風です。

       第3楽章は、序奏とロンドとコーダより成り、導入部から「エンジンのモットー」がトランペットで強奏され、ピアノに受け継がれるなど活躍します。その後モットーとも関連する行進曲風の動機(0:24)が繰り返し提示され、主部のABACD形式のロンドが始まります。A動機(0:35)はピアノが主導するジャズ・トッカータで、B(1:45)は木管主導のスケルツァンドになります。C(3:40)はヨーロッパの歓楽街の賑やかさを思わせる陽気なもので、日欧長距離飛行のゴールに近づいた昂揚感を表現しています。短いカデンツァを経て、A動機が激しく高揚(6:20)し、急速テンポによるコーダ(6:55)になだれ込み、一気呵成に全曲を結びます。

      HMV http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1863202 

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