歌舞伎座で二月大歌舞伎のうちから、番町皿屋敷と義経腰越状を幕見席で見てきました。
三月は十八代目 中村勘三郎襲名披露ですから、春と三月の穴場にあって余り人気はないのかなと思っていたら、大甘で休日の歌舞伎座は着物を着飾った老若女々であふれかえっておりました。(ちなみに三月の歌舞伎は発売と同時に売り切れのようです)
<昼の部>
- 番町皿屋敷 一幕ニ場
- 義経腰越状 五斗三番叟 一幕
- 隅田川
- 神楽諷雲井曲毬
<夜の部>
- ぢいさんばあさん
- 新版歌祭文 野崎村
- 二人椀久
番町皿屋敷は有名な「皿屋敷」伝説をベースに近代風に仕立て上げた岡本綺堂の代表的な新歌舞伎で、人気歌舞伎の一つのようです。お菊が家宝の皿を割ってしまい手打ちにされてしまうところは怪談と一緒なのですが、なぜにたかが皿一枚のために人の命が奪われなくてはならないのか、ということを岡本経堂は「男の純真な心を疑われた無念」に帰しています。
岡本は、お菊(時蔵)が心を寄せる青山播磨(梅玉)を男気のある純粋な人物として描いています。それ故にお菊が家宝の皿を、播磨の心を確かめるためにわざと割ったということに、播磨は憤慨し許すことができません。しかし、どうもこのストーリーには無理があり、お菊が不憫でなりません。
「俺が家宝の皿を割ったから手打ちにするような心の狭い男と思うな、最愛のお菊に疑われたことが悔しいのだ」といって、お菊を自ら斬捨て、井戸に遺骸を放り込み(!)、そして男やもめ、もはや喧嘩しか生きる道はない(!)として終わるのですが、なんぢゃこりゃ!?です。
ストーリーはイマイチですが、名台詞も多いらしくあちらこちらから掛け声が頻繁にかかります。青年播磨は梅玉の当たり役だけあって堂には入ていますし、お菊の時蔵もよかったです。でもねえ、私の隣は外国人でしたが、このストーリーをどう思ったことでしょう。
◇
続く義経腰越状は文句なしに楽しめる歌舞伎です。舞台上手の幕だまりからツケの音が聞こえた瞬間に「歌舞伎はやっぱりこれぢゃなくちゃア!」と思ってしまいます。舞台床を踏み鳴らして泉三郎忠衡(左團次)が登場するなり、あちらこちらから「(タ)カシマヤッ!」の掛け声がかかります、これだよ、これ、ああ幸せ。
義経腰越状の見所は、なんといっても軍師として名高い五斗兵衛(吉右衛門)が、悪臣の錦戸太郎(歌六)と伊達次郎(歌昇)兄弟に酒を飲まされ、次第に酩酊してゆくさまと、その後の三番叟の舞です。
次第に酩酊するという芝居は、新春大歌舞伎の新皿屋舗月雨暈(魚屋宗五郎)と酷似していますね。宗五郎(幸四郎)の酩酊ぶりも笑えましたが、五斗兵衛(吉右衛門)の呑み助ぶりもなかなかのもの。あちらこちらから笑いが絶えません。三番叟は五斗兵衛の舞とともに五斗兵衛を追い立てる奴たちのアクロバティックな動きが楽しめます。
ストーリーは、たわいもないもので、いったい義経はどうなってしまったんだ?という思いで終わるのですが、これはこれ、支離滅裂ともいえる筋書きが何とも潔いものです。こういう歌舞伎ならば何度でも観たいなあという気になりますね。
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