「ベートーベンなんてブッ飛ばせ」に始まり、「生涯青春を謳歌した超ゴーマン男=R・シュトラウス」、「イタリアが生み出した最高級の演歌師=ヴェルディ」など、「斬新」な切り口でクラシック音楽を紹介してくれている。クラシック音楽は権威に満ちて偉いものという偏見のあることを前提に、そんなことはないのだ、大人も子供も楽しめる音楽なのだよと啓蒙してくれる。
内容は分かりやすく面白い、それこそあっという間に読んでしまえる。五木さんの言うように「斬新」とも言えるし、作曲家に親しみを感じるように書かれている。その点は非常に良い本だと思う。
オペラはほとんど聴かないので、ワーグナーやプッチーニ、ヴェルディの章は「なるほど、そうなの、そういうもんなの」と納得しながら読んだし、今連載中のシベリウスの章などは、面白い考え方だと感心したものである。モーツアルトの「軽いとか深いのか分からない=そういうことを超越している」という主張も納得のゆくものだ。このように、言っていることは正く聞こえる、演歌もロックもクラシックもジャズも垣根なんてないという筆者の熱い主張もよく分かる。実際私もクラシックばかり聴いているわけではない。
しかし、気になる点もある。「私はすべてわかっちゃったんだもんね」というような上から目線が、クラシック音痴の読者に対して受け狙いでクラシックを説いていたり、偏狭なクラシックファンを揶揄するみたいな部分だ。自分の娘(10歳)が「モーツアルトはエロい」と言って、クラシック会場に訪れていた御夫人の目を白黒させる様を喜ぶというのも、悪趣味という気もする。筆者は「クラシックは偉い、権威主義だと世間で思われている」と繰り返すが本当にそうなのだろうか?クラシック好きは変人扱いされることは認めるにしても。
文中の引用なども出典を明らかにしながら書き進めているので、非常に神経を使って書いていると思うし、数多くの文献に接しているところは、さすがに文章を書くことを生業としている人は違うと思わせる。でも「音楽の本質がオレには分かっている」という態度はやはりいただけない。
別にクラシックが嫌いじゃない人や私のように了見の狭い人は、改めて読む本じゃなかも知れない。もっとも、私はオペラは全く聴かないので「オペラ道場入門」という続編は読もうと思っているのだが。
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