橋本治氏といえば「桃尻娘」や「窯変源氏物語」などが思い浮かびますが、軽い語り口とは裏腹に、なかなかに鋭い視点を持った作家であると思っています。
何しろ本のタイトルが秀逸です。著者の橋本氏も自ら書いているように、思わず手にとってしまいます。『○×の壁』とか言う題名のベストセラーに幻惑され、読んで更に幻滅されている方も多いかもしれませんが、この本は裏切らないと思います(多分)。
結論は単純ですし、結構当たり前なんですが、いろいろと考えさえてくれました。上司の「思いつきを」また自分の「思いつき」を支える土台を考える余裕がでましたし、今の自分の会社の中でのスタンスまで炙りだしてくれました。
それにしても、全くたまったものではありませんよね、上司というのはその地位が偉くなればなるほど思いつきでものを言って部下を困らせたり、果ての無い残業へと導いてくれます。ぜんたい、今の今まで私が説明してきたことを、少しでも理解するアタマがあるなら、たとえ反対意見であったとしても、そんな物言いにはならないはずなのですが、貴方(上司)は私の言っていることを本当にきちんと聞いていたのですか、あるいは、私の言うことが分からないほどに、もうボケておしまいになられたのですか。私の説明と貴方の指示に本質的な差異は見当たらないのですが。
そう思った矢先から、今度は私が部下に対して、思い煩ったようなそぶりを見せながら、同じように思いつきで指示をしてしまいます。それが上司から受け継いだ作法でもあるかのように、自分の憤懣などはあっちへ置いておいてです。
かように、理不尽にして茶番のようなサラリーマン生活を味わったことがある方ならば、どうして「上司は思いつきでものを言うのか」ということに対し、驚くような観点から説明してくれているこの本は、きっと面白いものであると思います。何故って、上司が思いつきでものを言える状況を出現させない方法などない、とこの本では断言しているのですから。
この空恐ろしくなる状況を作り出しているサラリーマン社会、あるいは会社というシステムを、何と儒教や民主主義まで持ち出してきて、飛鳥時代の日本から紐解いて説明しまうその、奇想天外さと鋭さ。しかし、どこのページを読み返しても、なるほどなるほどと深く頷いてしまいます。
まあ、儒教や民主主義はさておいても、日本の会社が官僚的に大きくなりすぎてしまい、現場から離れている人間(上司)が多すぎるという状況は直感的に理解できるものですし、官僚が日本を会社と見た場合の総務部であるとする説など、思わず膝を打ってしまいました。
橋本氏は「思いつきでものを言う上司」が溢れる状況に対し、これまた唖然とする提言をしますが、決して悲観的ではなく、確かにもう一度原点に戻って考えることも必要かななどと「ちょっと考えて」みたりするのでした。
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