「健全な肉体に狂気は宿る」という秀逸なタイトルに惹かれて買った本。内容は内田樹氏と精神科医 春日武彦氏の対談(ということになっている)をまとめたもの。
タイトルの言葉は春日氏が放った言葉(P.164)、精神病は身体が悪くなると治る傾向にあるらしく、精神病は身体が健全であって初めて成立するというような意味らしい。この本に特徴的なように、放談に近い内容ですから、その点を深く議論したものではありません。成る程と思う見方ではあるものの、言葉の持つインパクト以上のヒネリはなく、肩透かしな感じは否めません。(つまり粗雑ということ)
この本は、誰に向けて書いた本なのでしょう。帯に「自分探し」禁止!!
とありますから、最近の朝日新聞が作り出したがっている「ロスト・ジェネレーション」(*1)に対してでしょうか。世代論で捉えることの危険性は本書でも説かれています(第1章 世代論に逃げ込むな)。それでも、ここに書かれていることは一面的に過ぎるような気もして、素直に頷くことはできません。
そもそも、本書は「対談」ではありえませんしね。春日氏が結構面白い視点で話し始めるのに、すぐに内田氏がその10倍くらいの語量で自分のことを延々と話し始める・・・、この調子ですから実は最後まで読み通すのが結構苦痛でした。最初から「対談」ではなく内田氏の本と思って読めば、面白く読めたのかもしれません。本書を読んだあと、内田氏と春日氏のどちらを読みたいと思うかといえば、間違いなく私は春日氏です。
とはいえ、内田氏の持論である「自分が一番分からない」「次に自分が何を話すか分からないが、そういう分からない主体こそが自分であり、自らの言葉だ」という主張はここでも健在です。この主張は非常に深いものがあると感心はしていますし、そういうことを表現できる内田氏には敬意も感じています。でも、内田氏がここで話す内容は、春日氏のコメントに触発されて論理を飛躍させた「分からない自分」を装った自己談義と感じてしまい、おいしくいただけません。
私は、今更「自分探し」をやり始めることはありませんので、いくらリサイクル書店で安くて他にめぼしい本が見当たらなかったからといったって、この手の本を読む必要はなかったのでしょう。朝日の指摘するような「自分探し」とか「個性」を求めての無間地獄に陥っている人(*2)には助けになる本なのかもしれませんから、本書を全否定はしません(*3)。それに、実は至言も含まれていますので、とみきち読書日記にTBしておきます。
- 朝日の定義は、ガートルード・スタインのそれになぞらえて、日本の25~35歳代、失われた10年に就職年齢に達した、いわゆる「置き去り」世代を指す。
- 今年は2007年問題のひとつ、すなわち「団塊の世代」が大量定年を迎え始める年です。彼らの裕福さや価値観と対極にあるのが団塊の世代の子供、すなわち「ロスト・ジェネレーション」という構図で、ニートやフリーター、そして格差問題を考えるという視点は多いですね。日経新聞は「サラリーマン2007」と題して、団塊の世代の特集を組んでいます。
- 内容以前に、粗雑な本(新書に多い)の造り方に憤りを感じます。この頃の新書に共通のことで、今更憤っても仕方ないです。
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