2001年3月22日木曜日

工藤重典のフルートを聴く~J・P・ランパルへのオマージュ

日時:2001年3月22日
場所:王子ホール
フルート:工藤 重典
ピアノ:藤井一興

J.S.バッハ:無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV.1013
ベートーベン:スプリング・ソナタ ヘ長調 Op.24
P.ゴーベール:ファンタジー
矢代秋雄編曲:さくら変奏曲
A.バッチーニ(矢代秋雄編曲):妖精の踊り
プーランク:フルート・ソナタ

昨日はパユをサントリーホールで聴き、今日は工藤重典のコンサートを聴ける。東京はなんと音楽的に潤沢な場所であろうかと思う。

この演奏においては、ランパルに捧げるとあるように、昨年亡くなったランパルの弟子であり、80年の第1回ランパル国際フルートコンクールで優勝した工藤さんが、彼にゆかりの深い曲を中心に演奏したものである。

1曲目のバッハの無伴奏パルティータは、木管を用い柔らかな響きとバッハ特有の、どこか崇高なものを求める気持ちや、まるで大きな時間の中に投げ出されたかのような感じを聴くものに届けてくれた。

2曲目のベートーベンのスプリング・ソナタのヴァイオリンのフルート編曲版なのだが、どうもこの手のロマン派の曲は、失礼ながら聴いていて飽きてしまう。技巧もメロディーも素晴らしいのだが、これは好みなのだろう。それに工藤さんは本調子ではないのか?と思わせる部分が幾度かあった。彼の演奏を聴くのは2度目だが、ミストーンがあったり高音での音の伸びやかさに欠けているように思えた。いや、これは昨日の「パユショック」のせいだろうかなどと思いながら、曲にのめりこむことが出来なかった。

休憩をはさんで、ゴーベールの後の2曲は、ランパルのために矢代が編曲した曲。演奏の前に工藤さんの説明があり奏されたが、ランパルをしのぶという意味合いからも、音色が深く会場を包む思いがした。「妖精の踊り」はヴァイオリンであっても技巧を要する曲だが、フルートではそれこそ超絶的な技巧の演奏になるのではなかろうか、圧倒的な技量に裏付けられた快演であった。工藤さんの調子が悪いなどと考えたのは私の思い過ごしと疲れのせいのようだと思い知らされた。

最後のプーランクのフルートソナタは、ランパルが初演したもの。曲の細部もプーランクとランパルが練り上げたものであるとのことで、工藤さん自らがフルート協奏曲の中でベスト2に入ると言う曲である。そういう思い入れのある曲であるためか、非常に楽しめる演奏であった。1楽章出だしのかっこよさ、2楽章の夢見るようなゆったりとした感じ、3楽章の一転した早いパッセージ、何度聴いても良い曲だ。でも、工藤さんの一番のフルート協奏曲とは何なんだろう?

アンコールはまずはチャイコフスキーの「感傷的ワルツ」。おお、これはいい。楽譜が欲しいと思ってしまう。(吹けないだろうけど)

2曲目は、武満徹をしのんでということで遺作の「Air」。実は今回の演奏会で、これが一番素晴らしかった。工藤さんは最近、武満をしのぶという形でCDも出している。武満独特の沈黙が隣り合うかのような豊穣な世界が、最初の一音から展開された。よく聴くと、武満が影響を受けたというドビュッシー的な色彩が色濃い曲である。こういうテの曲は、演奏会場で聴いたとき独特のテンションをもって聴くものをつかむ。たった数分間だが音楽とともに深く内面に入り込んでゆくような感じを受けるものだ。昨日のパユのシリンクスといい、プロの演奏家のもつ力はやはり凄い。

このごろは、アンコール3曲てのがお決まりなのか、最後はビュッセールの「プレリュードとスケルツォ」。名前を聞くとどんな曲?と思うが、聴いてみると、「ああ、あれ」と言うくらいよく知られた曲である。武満の緊張を溶かし、満足のなかコンサートは終了した。

話しは変わるが、このコンサートの客層がちょっと変わっていたので最後に付け加えておきたい。工藤さんだって世界的に有名なフルーティストだ。昨日のパユでは、オールパユのコンサートではないにも関わらず、フルートバックを抱えた「いかにも」的な人が多く目ににつた。今日の工藤さんの演奏会は、60歳前後の高齢の男女が多く目に付く。王子ホールという場所がらなのか、工藤さんであっても東京ではもはや演奏会としては珍しくもないのか、うらやましい限りである。それにしてもなぜ?と思いながら会場では場違いな思いをしながら席に座っていた。

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